ウィリアムの決意
その2匹のうち1匹は、ベンドリック宰相派軍の中心部に水を撒き散らした後、急上昇してゆく。
そしてもう1匹、男を背に乗せた翼竜は、弓矢の届かぬ距離の上空にて急停止した。
言うまでもなくパトリックを乗せたプーである。
プーの背中の上からパトリックが叫ぶ。
「パトリック・フォン・スネークスである! 死にたくなければ、降伏せよ! 繰り返す! 降伏せよ! ベンドリック宰相派の兵士達よ! 貴様らがあてにしているであろう、プラム王国軍はここには来ない! そして南方面軍は、ディクソン派軍の助っ人としてこちらに向かっている。お前達に勝ち目は無い! 繰り返す! 降伏せよ!」
その言葉を聞く事ができた兵士は、幸せであった。
ペーに水をかけられた兵士達は、すでに凍って死んでいるのだから。
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「パトリック! よく来てくれた!」
ディクソン領に避難していたウィリアム王太子が、パトリックに声をかける。ウィリアム王太子は、パトリックがソーナリスと結婚してから、パトリックと呼ぶようになっている。
「殿下! ご無事で何よりです。遅れまして申し訳ございません」
パトリックがそういうと、
「カナーン宮廷魔術士達のおかげで、無事脱出できたのだ。それで先程言っていたプラム王国軍がどうのとは、いったいどう言うことだ?」
ウィリアム王太子は、横に立つデコースを見ながら言った。
「実は…」
パトリックが事情を説明すると、
「なにっ! マクレーンのやつ、そんな事でプラム王国と密約を交わしておったのか!」
憤慨するウィリアム王太子。
「はい、挟み撃ちにあっては堪らないので、先にプラム王国を抑えてきました。ディクソン領軍やカナーン領軍に、うちのヴァンペルト達が合流するのは報告で聞いていたので、暫く大丈夫だろうと、独断で動きました。お許しを」
「もちろんだ! よくプラム王国を抑えてくれた!」
「とりあえず南方面軍には、こちらに向かうように指示しました。砦はプラム王国を気にしなくて良いので、必要な人員以外はこちらに向かってくるかと」
「それならば降伏した兵士達を拘束しておけるな」
そう、ペーの攻撃がトドメとばかりに、ベンドリック宰相派の兵士達は、降伏していた。
劣勢に翼竜では、士気も無くなるであろう。
「はい、ただ長期に拘束となると、何かとめんどうなので、短期に解決してしまうのが良いかと。なんなら私が王都に飛んで、ガナッシュ派を壊滅してきても良いのですが?」
「いや、全てパトリックに頼ってばかりだと、王位に就いた時に、私の統治に問題も出てこよう。私も覚悟を決めた。マクレーンの命は、私の手で刈り取る!すまんが協力してくれ!」
ウィリアムがパトリックの眼を見つめて言った。
「殿下、いえ義兄上。本気ですか?」
パトリックは言い直して尋ねる。
「ああ、この私の性格ゆえの謀反であろう? 前回も今回も。今後、謀反を考える貴族が出ないようにしなければ、この国は纏まらん」
「分かりました。ならば協力致しましょう」