卑怯者
「よし! 一件落着!」
パトリックが気分爽快とばかりに宣言すると、
「まてーい! お前どうすんだよこの国をよ!」
アントニーが漫才師のようにツッこむ。
「お前が王になりゃいいじゃねーかよアントニー。勿論、俺に逆らわないという条件は飲んで貰うがな!」
「いや丸太に縛られたままで、逆らうも何も、どうにも出来ないんだが?」
「条件を飲むしかないだろう?」
悪い笑みでパトリックが問うと、
「やり方が汚いな」
呆れ果てた表情でアントニーが、言葉を吐き捨てる。
「そう褒めるなよ」
と、笑顔になるパトリック。
「一つも褒めてねーよ!」
アントニーがムスッとした表情をする。
「そう? まあいいや。で、条件飲むか? 今から死ぬか?」
「お前、兵士たちの命は助けるって、約束だろうが!」
「お前は兵士じゃなくて、王族じゃねーか!」
「屁理屈だろ! 俺はプラム王国軍中将、立派な兵士だろうが!」
「確かに兵士かもしれん。だが王族には変わりない。これが正しいモノの見方だ」
「正しくねーし! 仕方ない! 勝てる気もしねーし、死にたくもねーから飲むよ!」
「おっ、賢い選択をしたな!」
「やかましいっ! 卑怯者!」
「だからそう褒めるなって! 照れるじゃねーか」
「一言も褒めてねぇ!」
アントニーの悲痛な叫びが響く。
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「今頃プラム王国はどうなっているのだろうな?」
パトリックが飛び去った数時間後、南の砦でキュベス大佐はウィルソン元少将を牢に入れ、後始末して一息ついたところで、そう呟いた。
「なにせ翼竜ですから、精強なプラム王国兵士と言えど、どうにもならないかと」
隣にいた兵士が、そうキュベス大佐に言うと、
「いや、それはそうだろう。ワシが言いたいのは、プラム王国が存続するのかどうかという事さ。翼竜は災害級の魔物だ。国が吹き飛んでもおかしくない! せめて罪のない人々が、苦しまないようにして欲しいのだが、あの残虐な中将が、手心を加えてやるのだろうかとな」
「ああ! 確かに! プラム王国が潰れる可能性もあり得ますね。物理的にも」
「だろう? あの残虐さはなぁ。眼を開いたまま意識が飛んだ事など、初めてじゃわい。この歳でそんな経験するとは、思ってもみなかったな」
「スネークス中将は、寝てたと思ってるみたいですよ?」
と、少し笑みを漏らして兵士が言うと、
「あんな絶叫の響く中で寝れるほど、図太い神経しとらんわっ!」
と、キュベス大佐の声が大きくなる。
「岩のキュベスも形無しですな」
「お前らウィルソンを押さえてて、よく耐えてたな」
と、兵士が気絶しなかった事を褒めるキュベス大佐。
「私たちの目の前には、指は転がってきませんでしたから!」
と、アレはヤバかったと言う兵士。
「アレ、本当にキツかったわいっ!」
「でしょうね」
「死神の二つ名は伊達じゃなかったな」