グシャ
レオナルド王が、城のテラスに出てみると、上空に羽ばたく二匹の翼竜。
その存在感に、思わず一歩後ろに下がってしまったレオナルド王。
だが、気合を入れ直して前に進むと、
「俺がこの国の王! レオナルド・ディス・プラムだ! 上空から俺を見下ろすとは、失礼であろうがっ! おりてこいっ!」
と、怒鳴った。
その声が届いたのか、2匹の翼竜が旋回しながら高度を下げてきた。だが、レオナルド王の目線より少し高いところで、下降するのをやめると、
「ふむ、なんかお前に似てない? アントニー?」
漆黒の翼竜、プーの背に乗るパトリックが、そう言った。
「まあ、実の兄だから似てるだろうな」
と言ったのは、ぺーが足で掴む丸太にロープで縛りつけられている、アントニーと呼ばれた男。
そう、プラム王国軍の指揮官の男だ。
「え? お前王族なの?」
「王の弟だが?」
「王の弟が、なんで遠征に出張ってんの?」
「兄に嫌われてるからだが?」
「なんで?」
「もっと民の事を考えた政策をと言ったら、こうなった」
「お前の兄貴ってバカ?」
などと目の前にいる、プラム王であるレオナルドを無視して、話し込むパトリックとアントニー。
「貴様ら、俺を無視しておいて、言うに事欠いてバカ呼ばわりとはいい度胸だな」
ライオネル王が言うと、
「お前、隣の国の王女を奴隷に要求したくせに、知識人だとか思われたいのか? 真性のバカか?」
と、パトリックに呆れられる。
「きっ、貴様っ! わざわざ出てきてやったのにっ! しかも奴隷はマクレーン王子側が言ってきた事だ!」
そう怒鳴ったレオナルド王。
「まあいいや、でだ。死にたくなければ降伏しろ」
と、唐突にパトリックは降伏を迫った。
「は?」
と、思わず口から漏れたレオナルド王。
「なんだ言葉も理解出来ない畜生じゃねーか。アントニー、この畜生が王では苦労しただろ?」
「そりゃもちろん」
と肯定するアントニー。
「やかましい! さっきから聞いてりゃ、バカだの畜生だの、ふざけやがって! 殺してやる!」
そう息巻いたレオナルド王。
「殺してるやるとか、殺される覚悟がある奴だけが言っていい言葉だが、覚悟はあるのか?」
と言いながら、目を細めてパトリック。
「私は貴様如きに負けはせん!」
と、自信たっぷりのレオナルド王。
「いや、相手は翼竜だが?」
右眉を上げて、少し馬鹿にしたようにパトリックが言った。
「ひっ、卑怯な! 誰だか知らんが、王と戦うのに竜を使うとは、恥知らずが! 正々堂々と1対1で戦え!」
レオナルド王が叫ぶと、
「あ、名乗ってなかったか? んじゃ、簡単に。メンタル王国辺境伯にして、国軍中将のパトリック・フォン・スネークスだ。不当に領土侵犯しようとしてた卑怯者が、正々堂々とか聞いて呆れるがな!」
と言うと、
「アレはそちらの国が言い出したんだろうが!」
と言い返したレオナルド王。
「反逆者がな!」
と、少し殺気を込めてパトリックが叫んだ。
「うっ」
と、言葉に詰まるレオナルド王。
「知っていて話に乗ってる時点で、卑怯者だがな!」
「うるさい! 正々堂々勝負しろ! 翼竜無しで!」
「まあ、いいだろう」
パトリックのその言葉を聞いて、レオナルド王は勝ったと思った。
獣人の身体能力は、人族に比べて高い。王族はなおさら高い。優秀な血を受け入れ続けてきたからだ。
だが、パトリックの言葉は続きがあった。
「なんて言うと思ったか! ぺー潰せ!」
「なっなにっ! きさっ……」
レオナルドの言葉は最後まで言わせて貰えなかった。
グシャ!
ぺーの尻尾の一撃により、熟れたトマトを踏みつけるかの如く、ケチャップのような血をテラスに撒き散らし、その場で押し潰された、元レオナルド王だったモノ。