お得意の
砦に響く男の叫び声。
砦の壁に反響し、隅々にまで響くその声は、成人男性が普段出す声とはまるで違った。
それは、やめてくれと懇願する声と、激痛による悲鳴。
少し時間を巻き戻す。
ウィルソン少将は、簀巻状態の身体を縛っていたロープを解かれ、今は椅子に固定されており、その脇で2人の兵士が身体を押さえている。
暴れて椅子ごと倒れないようにする為だ。
そして、さらに1人の兵士が左腕を机に押さえつけている。
パトリックは、押さえつけられた左手の、小指の爪の間にナイフを少しづつ差し込みながら、ゆっくり爪をペリッと剥がした。
痛みに絶叫する、ウィルソン少将。
爪が無くなり、剥き出しになった左手小指の指先を、ナイフの先端でツンツンと軽く刺してやると、その度にウィルソン少将が叫ぶ。
それを面白がって笑うパトリックに、その光景を見て顔を青くする押さえつけ係の兵士。
パトリックの尋問を見届けると言った、副官のキュベス大佐は爪のない小指を直視したまま、微動だにしない。
小指の次は薬指、同じ作業をこなしていくパトリック。
中指、人差し指、親指と、左手の爪が全て剥がされ、指先はナイフに刺されたために、ズタズタである。
「話す気になったか?」
パトリックが、ウィルソン少将に問いかけるが、
「し……らん、知らんぞ」
と、絞り出すように声を出したウィルソン少将。
「あっそ! じゃ、続きいくか」
軽い感じで、ナイフを折りたたんで、ポケットに入れると、右腰にある剣鉈を右手で掴み、左手でウィルソン少将の左手を押さえつけ、ズタズタの指先に剣鉈を当て、スッと振り上げたかと思うと、そのまま指先に叩きつけた。
バンッと、剣鉈が木製の机に当たる音が響き、ズタズタの指先の肉が、机の上に転がる。
ウィルソン少将の叫び声など、気にした様子のないパトリックは、剣鉈をまた振り上げて落とす。
数ミリ単位で指先から、剣鉈で切り落とされていくウィルソン少将の左手の小指。
きゅうりを詰めた竹輪のような物体が、机の上に増えていく。トマトソースがけの竹輪など食べたくはないが。
すでに左手の小指と薬指は、根本まで無くなっていた。
そして中指の先に剣鉈が振り下ろされようとした時、
「ソフィア王女だっ! ソフィア第2王女を奴隷としプラム王国へ渡す約束になっている!」
ウィルソン少将が観念したかのように叫んだのだった。
「軟禁中のソフィア第2王女殿下を交渉材料にか、マクレーンのヤツ落ちぶれたもんだなぁ」
「マクレーン殿下では無いっ! 宰相だ! マクレーン殿下はそんな鬼畜のような事は言い出されない!」
「やかましい! マクレーンも承認したのだろうが! 同じことだ!」
「ウグッ」
「プラム王国はいつ王国に足を踏み入れるのだ?」
「明日、砦の北側から……」
「なるほど。ではひと暴れしてやるか」
「そんな事したらプラム王国との友好がっ!」
「王女を奴隷として受け取る約束をしておいて、友好などとふざけた事抜かすなら潰してやるわっ!」
そう怒鳴ったパトリックの黒い瞳が、さらに黒くなったように見えたのは、気のせいであろうか?