逃げ込む
南方面軍が、門に群がるようして砦の中に逃げ込むのだが、プーはパトリックを背に乗せたまま、かなりのスピードで近づいていく。
「え? プー、高さが低くない?」
と、高度が低くなった事に、疑問を問いかけたパトリックに、
ギャウギャッグガ
「ビビらせてから高度を上げる? どこでそんな悪知恵仕入れたの?」
ギャギャ
「あ、ソナね……てか、ソナの言う事聞き過ぎると、ヲタク竜になってしまうぞ?」
パトリックがプーに言うと、すぐ隣を飛んでるペーが、
ギャギャギューガガ
と鳴いた。
「あ、もう遅いのね……」
ペーの鳴き声は、パトリックに諦めろと告げていた。
プーは、南方面軍の砦の門から伸びる街道を、地面スレスレに飛び、砦に入りそびれてしまった馬を一頭、腕で掴んだ後に急上昇した。
砦から弓矢が放たれたが、そんなもの届く高さでは無い。
そして砦から、
「放てっ!」
と、叫び声にも似た声が聞こえたと同時に、10数本のバリスタの矢が、プーとペー目掛けて飛んできた。
だが、
ギャウ
ギー
2匹の鳴き声に、プーの前面に展開された漆黒のモヤにバリスタ矢は吸い込まれ、ペーの前面に展開された氷の板に、バリスタの矢は弾かれた。
「見事なもんだなぁ。さすが翼竜って事か」
パトリックは2匹を褒めた後、
「南方面軍達よっ! 私は、王都軍中将のパトリック・フォン・スネークスだっ! 貴様らの任務は砦の警護と、南部地方の治安維持のはずだっ! それを理解していると思うが、大部隊で何処に行くつもりだったのだ? 特に指揮官のウィルソン少将っ! 貴様よもやディクソン領に向かうつもりではあるまいなっ! あと、私への攻撃は今のは、私と知らなかった事にして置いて、不問にしてやるが、次は私への反抗と見なし、即座に反撃する! 心しておけっ!」
パトリックのドスの効いた声が響く。
ムシャムシャ
「わ、私はディクソン領が荒れていると聞いたから、治安維持に向かおうと思っていただけで……」
ウィルソン少将がビビりながら答えた。
クッチャクッチャ
「ふむ。ではマクレーン派を抜けるという事でいいのだな?」
「いや抜けるとか抜けないとか、そんな事は今考えることではなくてですな、その、とりあえず治安を……」
バリバリッ
「行った先で、間違えてディクソン領兵を倒してしまいましたとか、言い訳するつもりなら、今こいつが食ってる馬のように、貴様を食わせるが良いな?」
そう、さっきから咀嚼音がしていたと思うが、プーが飛びながら捕まえた馬を食っていたのだ。
そしてその時、プーが首を齧り切ったため頭部が下に落ちてしまった。
馬の頭部が落ちた先に居たのは、ウィルソン少将。
ウィルソン少将の目の前に、馬の頭部がドスンと落ち、その少し後に、馬の血液が落ちてきて、少将の顔を赤く染めたのだった。