ウィリアム逃げる
魔法を使用する時の詠唱ですが、分かりにくいようなので、前話を少し改稿しました。
全文と前文の違いは、前文と魔法名で全文。
エルフやドワーフは、魔法名だけで発動。
デコースは全文詠唱しなければ発動しなかった魔法を、前文を省略してもなんとか発動するように訓練しました。
王宮近衛騎士団の馬車が、馬に乗った王太子派の近衛騎士団員に警護されつつ、街道を南に駆けていた。
中に乗っているのは、ウィリアム王太子夫妻に、第1王妃とアンドレッティ近衛騎士団長。向かうは、妻の実家のディクソン領。
何故なら、城を出たウィリアム王太子に襲いかかってきたのが、ガナッシュ中将とその部下達だったのだ。
ガナッシュ中将はマクレーン第3王子の伯父であり、宰相とも懇意であった。
なんとかガナッシュ中将達の攻撃を避け、アンドレッティ王宮近衛騎士団長の元へと、逃げのびたウィリアム王太子は、事情を説明したのちサイモン大将に連絡。
それにより王都軍が、ウィリアム王太子派のサイモン派対、マクレーン第3王子派のガナッシュ中将派で睨み合い状態。
王都ではウィリアム王太子達の安全確保に、問題有りと見たアンドレッティ王宮近衛騎士団長の発案により、妻の実家のディクソン侯爵家に身を寄せる事にしたのだ。
「皆すまぬ、私が不甲斐ないばかりに、父王の葬儀すら満足に出来ずにこの状況だ」
馬車の中で詫びるウィリアム王太子に、
「殿下は何も悪く有りません、マクレーン様は何故あんな事を」
と言ったのは、王宮近衛騎士団団長の、アンドレッティ少将。
「マクレーンというより、おそらく宰相でしょう。奴の娘とマクレーンは既に深い仲との噂。正式に式を挙げてないだけで、夫婦同然。マクレーンが王位に就けば、権力を握れると踏んだのでしょう。宰相は私にも、妻の妊娠を知った途端に、娘を側室にと言ってきていたからな。やんわり断ったら父に進言してまで、私に娘を押し付けようとしていたし、父も最近の宰相の様子が、少しおかしいので断ったのだが」
と、ウィリアム王太子が言うと、
「私の妊娠が引き金なのでしょうか……」
と、気落ちした声を出したエリザベス王太子妃。
「そんな事有りませんよ、貴女は望まれた子を身篭っているのです」
と、ウィリアムの母である王妃が言う。
「その通りです。マクレーン殿下は、ベンドリックに言いくるめられたのか、ずっとチャンスを狙っていたのかはわかりませぬが、ガナッシュのやつは、私が大将を辞した時、スネークス中将が2軍と8軍の指揮を執る事になった時、少しだけ不満げな表情をしてましたし、甥を王位に就けて大将の座を狙ったのかと」
と、フォローするアンドレッティ近衛騎士団長。
「カナーンは上手く逃げ延びてくれただろうか?」
ウィリアム王太子が心配そうに言うと、
「デコース殿は、人族初の魔法使いです! 大丈夫ですよ。魔法だけでなく近衛時代に鍛えた、槍や剣の腕もありますから!」
アンドレッティ近衛騎士団長はそう言い、ウィリアム王太子の不安を取り除くのだった。