ミス
パトリックとアインの話は続く。
「まだ行動を起こしてないので、どうする事も出来ず、調査部に進言でもしようものなら、ケセロースキー家が握り潰して、陛下のお耳には入らないでしょうし、仮にお館様から陛下に進言しても、証拠がありませんし」
と、アインが言うと、
「だなぁ。様子を見るしかないのか?」
と、腕を組んで考え込むようして、パトリックが応える。
「警戒しつつという感じでしょうか」
「ウィリアム王太子殿下は、お優しい方だし言っても信じて貰えるか、かなり微妙だからなぁ。だが、報告しないわけにもいかないか」
「そちらも少し、妙な事になっておりまして」
「ん?」
「王太子殿下にも宰相がすり寄っていまして」
「え?」
と、目を見開くパトリック。
「実はエリザベス王太子妃殿下が、ご懐妊されております」
「本当か? そりゃめでたいが」
「はい、公表は安定期に入ってからだと思われます。が、ご懐妊されたということは、側室の解禁となります」
「あ、なるほど読めた。側室に娘を押し込む算段か」
「はい。ウィリアム王太子殿下に上の娘を押し込む気のようで」
「以前なら家同士のバランスとかの兼ね合いで、2人の王位継承者に妻を出すなど、不可能だったが今なら出来るのか? 陛下がそれを許すかな?」
「ここで先の話にも出ましたが、王子の婚約には本人の意向との言が……」
「マズいな」
「宰相の力が増す未来しか見えません」
「だなぁ。どちらが国王になってもって事か? なかなかエグいなぁ。で、ウチの金を西の防衛で使わせて削り、自分の家の力を確固たるモノにすると。しかし宰相の奴め、いったいどういうつもりだ。王太子殿下の側室に娘が入れば、ある程度目的は達成できるだろうに。正妻の子でなくとも王になる可能性はあるのだがな、生まれる第1子が男とも限らんのだし。可能性では満足できんのか? いや待てよ? 家の中から王太子殿下の家を崩壊させて助けるフリをして、その見返りに第3王子に王位を移譲させるつもりか?」
「あり得ます!」
「金はどれほど流れていそうだ?」
「砦建設費として計上されている数字は、アボット辺境伯の所の間者と情報を擦り合わせましたところ、おそらくマクレーン第3王子に10分の1ほど流れているかと」
「大金だな、アボット閣下に報告は?」
「あちらの間者と情報を共有しましたので、耳に入っているかと。どう致します?」
「金の細かい数字の流れを、なんとか掴んでくれないか? 誰にいくら流れたかを。その数字で陛下に報告してみる」
「はい、ではもう少しお時間を頂戴いたします。何せ財務部や外交官の口が堅くて」
「普通なら口が堅くて信用出来ると言うところだがな」
「さすがに拷問して、それが宰相にバレると証拠隠滅されてしまいますので、する訳にもいきませんし」
「まあ確かになぁ。詳細がわかったら、ウィリアム王太子殿下にも陛下と一緒に御報告して、警戒して頂かねばならんな」
「では、アボット家にもお館様の考えを伝えておきます」
「ああ、そうしてくれ。いや待て、ライアン殿の妻のクロージア様は第3王子の姉だったのを忘れていた! これ以上の報告はせず、アボット家の動きにも注視しておけ」
「承知しました」
この時、パトリックは拷問してでも口を割らせろと言うべきであった。
何故なら。
メンタル国王陛下崩御。
20日後、パトリックはこの報をスネークス領で聞く事となった。