転機
月日は2カ月ほど流れたある日、王都の屋敷に戻ったパトリックは、アインからの報告を受ける事になる。
「で、何かあったのか?」
ソファに座るパトリックに、
「2点ほど報告が」
と、アインが向かい側に座って話し出す。
「ふむ、聞こうか」
「では先ず、先のワイリー殿やヴァンペルト殿と、同じ時に貴族になった男爵達で、スネークス否定派の家のいくつかが、いよいよ領地を運営出来なくなりました」
「ほう……」
「主な理由は、領兵の維持不能と、残った農民達からの反発ですね。何せ魔物の駆除すら出来なくなり、農作物に被害多数で、農民達すら移住する者まで出てきてるとか。派閥の長に何とか援助をと申し出てるようですが、そこもウチとは交易が無い家ですから、内情は苦しいかと」
「まあ、そうだろうな」
「はい、どう立ち回ってどう動くか。他の家と協力してウチに仕掛けてくるのか、動向を探らせてます」
「協力して来るなら、いくつかの家に金か食糧援助するから裏切れと唆してやれ。それで分裂するさ。協力なんかその時点で終わるさ」
「かもしれません。一応、警戒はしておきます」
「ああ、そうしてくれ。で、もう一つは?」
と、先を促すパトリック。
「宰相の動きが妙なんです」
アインの言葉に、
「む?」
と、パトリックは、眉をひそめる。
「国庫の金をアボット辺境伯領の、新砦建設に回している事は報告済みですが、その金の流れに不審な点が有ります」
「ウチに金貨1枚すら回してこないのに、懐に入れてやがるのか?」
「懐というより、おそらくマクレーン第3王子にです」
「なに?」
「現在、陛下がウィリアム王太子殿下に、仕事を少しづつ回して、執務を緩やかに移譲していっておられます。そこにマクレーン第3王子の入るスキはございません」
「当然だな。入られるとややこしくなる」
「はい。その通りです。なのに外交部門に居る者達が、マクレーン第3王子派の宮廷貴族で占められつつあります」
「なに? そんなはずないぞ? ウィリアム王太子派の宮廷貴族のほうが多いはずだ」
「モルダーの店に来た、外交官が口を滑らせまして、どうやら宰相から回って来た金で、宮廷貴族を買収しているようで、表向きウィリアム王太子派でも、裏でマクレーン第3王子派という感じで、色が変わりつつあるようです」
「宰相とマクレーン第3王子の関係はたしか……」
「宰相の末娘とマクレーン第3王子の婚約が、決まりつつあるようです。第2王子の反乱のおりに、反王家派が壊滅してから、陛下は[婚姻は本人同士の意向を重んじる]と明言されましたから、マクレーン第3王子が結婚したいと言えば、陛下はお許しになると思います」
「つまりあれか、マクレーン第3王子を国王に据えて、宰相は王の妻の父になりたいわけか?」
「というより、マクレーン第3王子を傀儡として王位に着けて、後ろから国の支配を目論んでいる可能性も」
「何度も会っているが、そんな風に見えなかったがなぁ」
「数ヶ月前に新しい執事を雇ってから、様子が変わったと、モルダーの店に来た客が言っていたと。クビになった使用人が多数いるそうです」
「新しい執事? そいつの入れ知恵か? それ、ケセロースキー家も知ってるのか?」
「それが、ケセロースキー家も1枚噛んでそうなのです」
「なにっ?」
「カイル殿の婚約者が宰相の2番目の娘です」
「あ、ダメだこれ。荒れそうだ」