モルダーの説明
「酒の流通のコントロール、これ、貴方が握る前は誰がしてました?」
モルダーが、ウィルソンに問うと、
「それは、直売はスネークス辺境伯だが、卸して貰った分は、元々私がしていたぞ! それに辺境伯は私の提案に、快く応じてくれた。それは辺境伯も食品商人組合が、コントロールした方が良いと思われたからだろう。食品の流通は商人が担うものだ」
と、ウィルソンが言ったのだが、
「スネークス辺境伯に敵対する貴族に、大量に卸してその家の益となる事なのに、快く? あり得ませんねぇ。では次に応じないなら、スネークス領に芋や果実を流さないと脅した事は?」
少し目を細めて、モルダーが聞く。
「アレは交渉というのだ」
と、太々しく言うウィルソン。
「ほう、私は脅しだと思いますけどねぇ」
「だいたい貴様に何の得があるのだ! 酒の流通をコントロールできれば、お前の店もふんだんに酒を仕入れる事ができるのだぞ! 辺境伯に頭を下げなくてもな!」
と叫んだウィルソン。
「ふむ、これだから馬鹿は困る。うちの店のオーナーが誰か知らないらしい。ウチの店の名は、なんでしたっけ?」
「オーナーはお前だし、店の名はバース・ネークスだろうがっ!」
「ですねぇ、表向きは! では店の名からバーを外してみてください」
「バーを? バー、ス・ネークス」
「解りましたか?」
「ス、ネー……クス……? まさかっ⁉︎」
「やっとその腐った頭でも、わかりましたか。やれやれ。そうウチのオーナーは、スネークス辺境伯ですよ。私はオーナーのフリをした現場管理者なだけでね。酒は普段は直でウチの店に運ばれてくるんですよ。オーナーからね。それを邪魔しておいて、得があるのかとはねぇ」
「貴様! 奴の犬かっ!」
「まあそうですねぇ。私の命の恩人ですから、お館様に犬になれと言われたら、喜んでなりましょう!」
「ふんっ! ならばこの事を、すべての貴族に言いふらしてやるわっ! お前の店が、スネークス辺境伯の店だと知ったら、支店がいくつ潰されるか楽しみだ! 何せ嫌われてるからなぁ!」
と、ニヤニヤしながら言ったウィルソンだが、
「おや? 腐った頭の中でさらに虫でも飼っておいでか? 生きてこの部屋から出て、外を歩けるとでも?」
と、呆れた顔のモルダーが言った。
「な、なに⁉︎」
と、聞き返したウィルソン。
その時、バンッとドアが開き、数人の男が雪崩れ込むと、ウィルソンの顔面を拳でぶん殴り、麦を入れる麻袋に、ウィルソンを無理矢理詰める。邪魔になる手足の骨を折って。
袋の口が縛られたのを確認したモルダーが、
「お館様の言いつけどおり、スネークス領で処分しておいてくれ、例の場所なら魔物も掘り起こさないからな」
そう言って、男たちに近づく。
「了解であります。それと伝言です」
と言って、1枚の紙切れをモルダーに渡す。
それを見たモルダーは、
「了解と伝えておいてくれ」
と言った。
そうして血の滲む麻袋を抱えて、男達は去っていく。
それを見送ったモルダーは、他の理事達を見て、
「さて、新しい理事長と組合長を決めるが、投票するのも面倒だ。俺が成るのに異議のある者はこの部屋から出ろ。残った者は信任と見なす。まあ、出た者の命の保障は出来んがな」
そう言って、理事長の椅子に足を組んで座った。
真っ青な顔をした理事達は、部屋からは誰も出なかった。