不信任決議案
組合長が、酒の分配を男爵相手に横柄な態度でしている頃、モルダーは精力的に動いていた。
すでに食品商人組合の、理事の1人になっていたモルダーは、組合の役員に働きかけ、組合長の不信任決議を提出した。
それを知った組合長は、
「ふん! 新参者の理事が偉そうに! 私の力を知らぬのか。もはや私が酒を牛耳る者なのだぞ! 酒場を経営してる癖に、そんな事すら解らんのでは、ゆくゆく店は潰れるな。何せワシがこれから酒を回さないからな!」
と、余裕シャクシャクの態度で、信任か不信任かの投票日を迎えた。
投票できるのは、組合の理事13名と、理事長1名。理事長は組合長も兼ねる。そして理事長には、投票権が2票ある。
さて投票は記名式にて行われる。
先ず開票されたのは、理事長と組合長を兼任する男、ウィルソン氏。王家より、準男爵に任じられている男である。
「ウィルソン氏、信任2票」
開票作業する者が、用紙を皆に見せて言う。
ウィルソンは頷きながらそれを見る。
「続きまして、モルダー氏、不信任」
不信任決議を出した張本人なので、当然であるが、ウィルソンはモルダーを忌々しく睨む。
「続きまして、ギューバード氏、不信任」
その声を聞き、
「なっ! 何故だっ! ギューバードッ⁉︎」
と、ギューバードに怒鳴るウィルソン。
「理事長! お静かに! まだ開票の途中ですよ!」
モルダーがニヤニヤしながら、ウィルソンに言うと、
「貴様っ! 買収しやがったな!」
「さて? なんのことやら? 私にギューバード氏を買収出来るほどの資金が無いのは、ご存知のはずですがねぇ? 誰かさんが酒の値段吊り上げてうちに売ってるので」
「どこかから借りたんだろうがっ!」
「さてどうでしょうねぇ?」
「ふん! 1人くらい買収したところで、結果は変わらんのに、無駄なことを! ギューバード! お前終わったら覚えてろよ!」
と、喚いていたのだが、
「続きまして、ロウタワー氏、不信任」
「えっ?」
「エリン氏、不信任」
「なっ⁉︎」
「不信任」「不信任」「不信任」……
「以上、信任2票、不信任13票。以上の結果により、本件は可決されました。よって、ウィルソン氏の理事長と組合長の職を解くことになりました。続きまして……」
進行役の話を遮ってウィルソンが、
「お前ら! 私を裏切ってまで、このモルダーに従うのに、いくら貰ったんだっ!」
と怒鳴る。
「私は銅貨1枚すら、渡してませんけどねぇ」
「嘘つくなっ! それなら何故、私に従ってきていたのに、こうも手のひら返しするのだ、金しか無いだろうがっ!」
「理事長、いやもう今はただの理事か、良いですか? 貴方誰に喧嘩売ったか解ってますか?」
「誰にも売っとらん!」
「はあ、救いようがない馬鹿っているんですねぇ」
「誰が馬鹿だっ!」
「勿論貴方ですよ。馬鹿の貴方にでもわかる様に説明してあげましょう」