隠し事は良くない
「スネークス家より返事が来ました、酒を組合に一括で卸すそうです」
部下からの報告に、
「そうだろそうだろ、食品商人組合に逆らっては、芋や果実を買えなくなるからな。酒には材料は必要なはずなのだ。ワシの言ったとおりだろうが。いくらスネークスと言えども、食品商人組合には地方貴族は勝てんのだ。これで他の男爵家に売ってやって、我が組合の力はさらに上がるぞ!」
と、ふんぞりかえって言った。
「ですな、スネークスが独自に酒店等の出店するにも、他領なら我が組合の許可が必要ですからな!」
と、部下の男は上司に媚を売る。
とある大店の店主は、婿養子である。
先代に気に入られ、一人娘の婿に迎え入れられたのは良かったのだが、その一人娘が良くなかった。
典型的なお嬢様育ちのわがままで、自分の思うように事が進まないと、癇癪を起こし、暴れ回る。
そんな女と上手くいく訳はなく、数年で男は外に女を作った。いわゆる浮気である。
妻にバレないように、細心の注意を払ってきた。
今日はその相手に、会いに行く日である。
定期的に日を決めており、妻には帳簿をチェックする日だと伝えてあるので、遅く帰ってもバレないのだ。
店が終わると、何食わぬ顔で裏路地を歩き、とある一軒家の扉をノックする。
中から顔を出した、小柄で気の弱そうな女が、微笑みながら迎え入れ、男はその家の中に入っていく。
「はい、1人頂き」
尾行していた男が、笑いながら呟いた。
とある大店の1人娘、その娘が足繁く通う店がある。
その店は、ソファーに隣り合ってかけて、店員の男がカクテルをつくり、提供する形式の店である。
その店の指名率No. 1の男に入れあげ、かなりの金を使っている。高い酒になると、グラス一杯銀貨数十枚などザラに有る高級な店だ。
その男に気に入って貰いたい一心で、高い酒を注文しては、喜ぶ男に抱き締めて貰い、それをされたいが為、また高い酒を頼む。
この店は掛売りもしているので、その日、現金が無くても酒が飲める。その娘の借金になる訳だ。もうかなりの額になっているのだが、娘は男に抱き締めて欲しいが為に、店に通うのをやめない。
が、ある日店の人間に、今週中に払えと言われた。
その額なんと、
「き、金貨100枚っ⁉︎」
「ああ、そろそろ払って貰いたいのだが?」
「そっ、そんな大金無いわっ!」
「無いで済むと思うのか? 無ければそういう店で働いて貰うことになるが?」
「嫌よっ!」
「なら払え。親に言えば何とかなるだろう?」
「お父様でもすぐに100枚なんて無理よっ!」
「待つ条件が無い訳でも無いが、それは君の親に言うとするか……」
苦虫を噛み潰したような女の前で、口角を上げる男が1人。
「はい、ここも落ちた」
と、呟いた。
他にもギャンブルで借金を作った者、そもそも店を大きくする時に、不正をしてのし上がった者等は、既にリストアップされていた。
さて、こんな事があちこちで起きていたが、尾行はどこの手の者か?
このホストクラブのような店のオーナーは?
読者には言わなくても1人の男の名が、もう頭に浮かんでいるだろう。