食品商人組合
スネークス領のスネークス邸、その執務室に2人の男が居た。
「モルダーが店で掴んだ情報です」
そう言ってアインが、パトリックに話し出す。
「ワイリー男爵達と同時期に男爵になった、反スネークス派に属する新参男爵達が、同盟を組みました」
「ほう」
と、パトリックが少し感心したような声をだした。
「特に、酒の流通を止めてる領地の、男爵達が中心のようですが、ドワーフ離れを危惧し、酒の流通している領地の商人に働きかけ、抱え込みを画策しているようです」
「ドワーフは酒に弱いからなぁ」
少し気の抜けた声のパトリック。
「はい、ドワーフが去ると、建築や鍛冶関係で不都合が出ますし、奴らも躍起になっているようで」
「まあ、理解は出来るが」
「ウチとしては、それに対応するため、現在把握している抱え込まれた商人に、酒を卸すのを即時停止していますが、それを不満に思った商人から苦情がきました」
との報告にパトリックは、
「奴らに売らなければ、卸してやると言えばいいだろ?」
と、少し疑問形で聞き返す。
「そうなのですが、食品商人組合を通しての正式な異議申し立てで、どこに流通させるかは、本来なら組合が決める事なので、流通させるなら組合に一括で卸すようにと、難癖つけてきました」
と、少し呆れた声で言うアイン。
「ふざけた事言ってやがるな。どこに卸そうがウチの勝手だ! 喧嘩売ってやがるのか?」
少し言葉が荒くなるパトリック。
「こちらの条件を飲まないなら、他の食糧等を、スネークス領に卸さないと言ってます。領民の食糧だけなら自領で賄えますが、酒の原材料を買うのに支障が出ますので、どうしたものかと」
「現在はまだ入ってきてるのだな?」
「はい、昨日の話ですので」
「ふむ、食品商人組合は死にたいのかな?」
「殺されはしまいとタカを括っているのでは?」
「便利に使えるから、甘い顔してやってたのに、つけ上がりやがって」
「どうします?」
「決まってるだろ。食品商人組合をぶっ潰す!」
食品商人組合、それはあらゆる食品を扱う商人が登録しており、国からの委託により、出店の許可をする業務をしている。
これは貴族が、直営店を領地や王都で開く場合は、ここの許可は要らない。が他家の領地で店を開く場合や、平民が店を出す場合は、必要である。
他にも商人同士の揉め事の仲介から、流通の為の馬車の貸し出し、仕入れをするための資金の貸し出しなど、手広く手掛ける組合であり、王国でもかなりの力を誇る組合である。
勿論、王家に口出しできる程ではないが、領地運営に四苦八苦している男爵などは、頭の上がらない存在でもある。
苦しい時に格安で、食糧を融通してもらう事もあるだろう。
ちなみにバース・ネークスも、食品商人組合に所属している。
表向きのオーナーは、平民のモルダーで登録してあるから、所属しないと出店許可が出ないからだ。
パトリックがオーナーでは、反スネークス派の貴族は来ないので。
ただし、一部貴族はちゃんと気が付いている。
食品商店組合も一枚岩では無いが、新参のバース・ネークスの力は、まだまだ大きくは無い。ある程度の発言権は既に手に入れてはいるが、組織を動かすほどではない。
そこは、古い老舗や大店が力を持つ組織だ。
「組織幹部の、古傷でも弱みでも何でも良い。調べ上げてこい!」
パトリックがアインに指示を出す。
「調べがつくまではどう致します?」
「奴らの言う事を聞くフリをして、酒を卸してやっとけ! 図に乗ったところを叩く!」
そう言ったパトリックに、
「はっ!」
と、敬礼して答えたアインだった。