ケビンとアイシャの心配事
カナーン子爵家の王都の屋敷、この日そこには多くの人が集まっていた。
カナーン家は、古くから続く血筋であったが、長く男爵のままであった。まあ、王国が平和だった証拠であるが。
だが、ヘンリー第2王子の反乱という大事件により、前当主の貢献により子爵となる。
そして、人族初の魔法使いとなった新当主に家は引き継がれた。
王都に新たな屋敷を購入し、その屋敷で今まさに新当主であるデコース・フォン・カナーンと、サイモン侯爵の三女クラリス・サイモンとの結婚式が執り行われている。
王国初の人族の魔法使いである、デコース・フォン・カナーン王宮魔術師、その結婚式ともなれば、相手が侯爵家の娘でなくとも、人は集まったであろう。
だが侯爵の娘との結婚、そしてスネークス辺境伯の従兄弟という事実もあり、王都カナーン子爵家は、カナーン家史上初と言っていいくらいの人だらけである。
サイモン侯爵派の貴族は勿論来ているし、スネークス辺境伯派はまだ数は少ないが、派閥でなくても付き合いの有る家は多いし、同盟関係のアボット辺境伯家も来ている。
それに、デコースの妹のアイシャの婚約者である、ケビン・ディクソンの実家、ディクソン侯爵家とその派閥も来ている。
ひと昔前のカナーン家は、派閥と無関係の男爵家だったのに、今や大派閥に囲まれた子爵家になった。
なお、この結婚式に来ていた家は、スネークス辺境伯容認派と呼ばれている。
なぜなら、スネークス辺境伯否定派という、新たな派閥が形成されているからである。
それは王家派や中立派とは関係なく形成されており、以前の単純な派閥争いを、複雑でややこしいモノに変えてしまった。
話を戻すと、式が子爵家にしては豪華なものだったのは、各家からの助言があったのだろう。
侯爵家から妻を迎えるにあたり、家の格相応では向上心が無いと陰口を叩かれる。
だが伯爵規模だと、見栄を張ってと馬鹿にされる。
そんな貴族社会において、ちょうど良い頃合いで式を挙げたカナーン子爵家は、無事乗り切ったと言っていい。
「デコース兄、改めておめでとう! クラリス夫人、どうかデコース兄をよろしくお願いします」
微笑みながら、新郎新婦に挨拶をするパトリック。
「パット! ありがとう。あの時、お前のお陰で挨拶に行けたから、今がある」
そうパトリックに返したデコースと、
「スネークス辺境伯、お願いされましたからには、引き受けます!」
と、ノリの良い答えを返すクラリス夫人。
顎髭が蝶々結びなのが、ノリの良さを物語る。
それを家族席で眺めるアイシャ。
「ケビン様、私達は家長でもないし、もう少し質素でいいのよね?」
と、隣に婚約者枠で座るケビン・ディクソンに問うと、
「ええ。私は三男で家からは独立しましたし、せいぜい騎士爵規模かと」
と、答えたケビン。
「でも、出席者はこれ程では無いだろうけど、多そうよね。あなたの実家の派閥や、パット兄様の派閥は来るでしょうし……」
「多分サイモン侯爵家も来そうですしね」
「お金足りる?」
「父に借りますよ。軍曹の給金ではとても足りません」
「デコース兄様が結婚するとは思わなかったし、その頃はこんな心配する事無かったのになぁ」
2人の結婚式も2ヶ月後に決まっていたのだった。