悪巧み
「お館様! アレはゴブリンキングでしょうか?」
ミルコがパトリックを見て聞いてくる。
「キングだろうな。明らかに倍ほどデカくなったしな」
「キングが2匹同時に発生ですか……」
信じられないというような表情のミルコ。
「そんな事言ってる場合ですかっ? 明らかにこちらに敵意剥き出しで歩いてくるのですが、どうしますっ?」
部下の兵士が言うと、
「ああ、こうするのさ」
パトリックは、砦とキング2匹を一直線に見える位置に移動し、最大限に殺気を解放し、ゴブリンキングを睨み付けた。
ゴブリンキング2匹の歩みが止まる。
パトリックを見て僅かに震えているようにも見える。
ちなみに他のゴブリンは、尿を漏らしている。
「臭えなぁ。まあ俺とやる気なら向かって来ても良いが、その震える身体で戦えるのか? ほら、あそこの砦に俺達より弱そうな人間がいるぞ? アレで我慢したらどうだ?」
と、睨みつけながらパトリックが言う。
「お館様? ゴブリンキングって言葉理解しましたっけ?」
ミルコが突っ込むが、
「知らん! ぴーちゃん達は俺の言葉を理解するから、可能性はあるかと思ってな」
「そんな無茶苦茶な……」
「だが、なんか効果あったっぽいぞ?」
「え?」
ゴブリンキング2匹が、向き合って呻き合うと、他のゴブリンに向けて、何やら呻く。
「おいそこ! 集落への道を開けてみろ」
パトリックが兵に指示をし、兵士たちが道をあける。するとゴブリンキング2匹を筆頭に、他のゴブリンも砦に向けて走り出す。
「ほら、上手くいった」
「どうするのでしょう? 砦に到達するまでに弓矢で撃たれてしまいそうですけど?」
「仮にもキングだろ? 矢の数本でくたばりはしないだろうし、ゴブリン共が砦を破壊して蹂躙し出したところで、助けるフリして恩を売って懐柔しようかなぁって」
悪びれずに言うパトリック。
「さすがお館様。極悪ですね」
と、呆れたミルコに、
「そう褒めるなよ」
と、少し照れたパトリック。
「1つも褒めてませんけどね」
目を細めたミルコ。
パトリックの作戦は、パトリックの予想通りに進んだ。
集落の男が数人、ゴブリンキングに殺されてしまったが、パトリック達とまともに戦っていたなら、数人では済まなかっただろう。
無論、ゴブリンキング2匹と、雑魚ゴブリンはパトリック達によって殺されている。
集落の者達は、パトリック達に感謝し、王国に協力すると誓ったのだが、世の中知らない方が幸せを享受できる事もあるということだろうか。
なお、兵士達はパトリックからキツく口止めされている。
まあ、口止めを破って言うような愚か者は、パトリックの部下には居ないだろうが。