驚愕のコナー子爵
「ワイリーとヴァンペルトはアメリアとソナの護衛を。手は出さないと言うが、本当かどうか分からんからな。リスモはミルコと共に無理のない程度に暴れろ」
と、パトリックが指示を出す。
「お館様は?」
ワイリーが聞くと、
「俺は1人で動く。久々に本気で打ち込んだ練習の成果を見るのも良かろう」
ニヤリとパトリックが笑った。
正面玄関に到着すると、リスモとミルコが、
「ではっ!」
と言って扉を開けて飛び出す。
玄関前にはコナー子爵の兵が既に待ち構えていた。
コナー子爵の兵は、良く鍛えられてはいるが、正々堂々、1対1でしか攻撃してこなかった。
「なんとも甘いことで」
リスモが言うと、
「確かにな。だが、我らもその方が楽ではある」
と、ミルコが答える。
ミルコとリスモは決して相手を殺しはしていない。
相手の剣を剣でいなし、拳や脚で相手の意識を狩る。
北部で山岳の民との争いの時、部族の女が武器を持って向かって来た時の対応を、ここでもしているだけだ。
だが、コナー子爵の兵にとって、屈辱であっただろう。2人ともすでに何人も倒しているのに、息すら上がっていないのだから。
そして、それを見つめるコナー子爵。
「ふむ、噂通り兵の腕はかなりのモノだが、スネークス辺境伯が出てこないな。面と向かった勝負は苦手との噂もあったが、全てを部下に任せるような臆病者には見えなかったがな……」
と呟いたのだがその時、
「ああ、俺の腕はあの2人とそう違いは無いが、得意なのはこっちだな」
と、コナー子爵の背後で冷静なパトリックの声がした。
驚いたコナー子爵は振り返ろうとしたが、
「動くな! 少しでも動けば首を切る!」
そう言って首にククリナイフを当てたパトリック。
「いったい、いつの間に……」
「スキだらけだったぞ、背後から斬り付けても良かったのだがな」
「どうやって……玄関から出ていないだろう……卑怯な……」
「いや玄関から出たぞ?」
「嘘をつけ! あの2人が出てくる前に私はここに到着して見ていた! 玄関からはあの2人しか出て来ていない!」
「いや、一緒に出たんだけどなぁ。まあいいや。で、どうする?」
「一緒に出ただと……」
「ああ、あの2人と同時にな。で? どうする?」
「お前たち! 剣を引け! 負けだ!」
コナー子爵が大声で叫んだ。
数十分後、負傷した兵士達の手当てを終えて、再び応接室に揃うパトリック達とコナー子爵達。
「では、改めてミルコから挨拶の続きを」
と、パトリックが言うと、
「え? 私からですか? あの後で?」
「許可を得てから今後の話をしないとややこしいだろ?」
「はぁ、分かりました。では改めて、スネークス辺境伯が騎士、ミルコです。コナー子爵閣下の御息女との婚姻の許可を頂きたく参りました」
と、言って頭を下げる。
「うむ。先日の手紙を読むに、平民出身だが、それなりの学は有りそうだし、腕の方は先ほど確認したし、特に問題は無さそうではある。仕える家が問題ではあるがな」
と、コナー子爵が言うと、
「ほう、まだ足りてないか?」
少し嫌味っぽく言うパトリック。
「いや、素直に負けは認めるよ、全面戦争にでもなれば、パーティーの時に居たワイバーンも出てくるのだろう? 勝てる見込みがない」
「ああ、もうワイバーンは居ないがな」
「何? ワイバーンは逃げたのか? それとも逆らってきたので倒したのか?」
「いやまあ、まだ内緒だが、ワイバーンから翼竜に進化した」
「は?」
「2匹とも翼竜に進化し、俺の使役獣として表の黒い馬車の中に居るぞ」
「えっと……進化?」
「ああ!」
「ダメだ……翼竜とか災害級の魔物ではないか……」
「人対人で良かったな」
「あ、後で見せて貰っても?」
「いいぞ。話が纏まってからな」
「ああ、頼む」
「では、とりあえずミルコとアメリアの婚姻は認めるという事で良いのかな?」
「うむ。認めよう」
「では次に、私に歯向かった件についてだが、こちらには怪我人も居ないし、部下の妻の実家に無茶な事を言うのもどうかと思う。しかしだ、何も無しというのも、俺の気が収まらんので、指一本で許してやる」
と言ったパトリック。
「「「「「「指?」」」」」」
パトリックとソーナリス以外の声が揃った。
「利き腕は右だよな?」
パトリックがコナー子爵に聞く。
「ああ、片手剣なら右手で握るが?」
「なら、左手の小指の第2関節から先でいいや」
「えっと、話がよく分からないのだが?」
「説明してやろうか?」
パトリックが言うと、隣に居たソーナリスが、
「日本式なのね」
と言った。
「「「「「「ニホンシキ?」」」」」」
皆の口から言葉が漏れる。
そうして、パトリックとソーナリス以外が、ドン引きする内容がパトリックの口から語られた。