笑うコナー子爵
「ヴァンペルト、変な動きをすれば容赦なく切れ!」
パトリックは男に聞こえるように言う。
「は!」
剣の柄に手をかけて答えたヴァンペルト。
先頭にヴァンペルトを歩かせ、屋敷内に入るパトリック。後ろはリスモが続く。
ワイリーはソーナリスの護衛をしている。
アメリアとミルコはソーナリスよりも後から屋敷に入る。
執事の男は隙を作ろうとしているのか、歩く歩幅が微妙に変わるが、ヴァンペルトはそれに惑わされるほど愚かではない。
とあるドアの前で男は立ち止まり、
「こちらで主人がお待ちです。どうぞ中に」
と言いながらドアを開ける。
開けられたドアの内部よりナイフが飛んでくるが、ヴァンペルトは片手で払い落とすと、剣を抜いて入室する。
続いて入室するパトリック達。
「お久しぶりですなスネークス辺境伯殿」
室内の男が太々しい笑顔で言うと、
「なかなかのご挨拶ですなコナー子爵殿、先日は妻との結婚パーティーに来ていただきありがとう。で、あの手紙ですが、本気ですかな?」
と、パトリックが聞き返す。
「なに、煽ってきたのはスネークス辺境伯殿でしょう?」
と答えが返ってくる。
「パット? 手紙にはなんて書いたの?」
と、ソーナリスがパトリックに尋ねる。
「ん? ああ、ミルコとアメリアの結婚を認めるよう、お・ね・が・い、しただけだ」
と、パトリックが言うと、
「ほう! 最近は脅迫をお願いというのか」
と、コナー子爵がワザと驚いた表情を作る。
「脅迫って……」
と、ソーナリスが呟くと、
「ん? 認めないなら怪我するぞって書いただけ」
と、さも当然のようにパトリックが答えた。
「ダメだこりゃ」
ソーナリスが額に手を当てて嘆く。
「それを言うならコナー子爵だって、〈返り討ちにしてくれるわ小僧〉って書いた手紙返してきたよ?」
と言われたソーナリスは、
「アメリア? どこが普通なの?」
と、アメリアの顔を見て言う。
「え? 貴族の当主はそのようなものではなかったのですか?」
と、驚くアメリアに、
「あんた私について色んな貴族当主を見たでしょう? 何見てたのよ……」
と返すと、
「怒っている貴族の方は父親以外見てませんし、王家の方達は、例の反乱の時ぐらいしか印象にありませんから」
と、アメリアが少しだけ申し訳なさそうに言う。
「えっと、こんな時になんですが、スネークス辺境伯が騎士、ミルコです。コナー子爵閣下、この度、お嬢様との婚約を認めて頂きたく……」
と、空気を読まないミルコが頭を下げながら言うと、
「ほんとうにこんな時だな……」
と、コナー子爵が呆れて言った。
「一応、話をしておこうかと」
と、申し訳なさげに言う。
「アメリア、スネークス家には、こんな変人ばかりか?」
と、コナー子爵は娘に問うと、
「えっと、それ私も入ってます? お父様?」
「勿論だ」
「ならば否と」
と、きっぱり否定するアメリア。
「ふん、お前は昔から常識を知らんからな。まあいい。で、室内で話すか? それとも外でやるか?」
コナー子爵はパトリックの顔を見て言う。
「屋敷を破壊するのもなんだし、外に出ますか」
「では表から出たまえ。我らは裏口から出る。安心したまえ女性には手を出さんよ」
とコナー子爵。
「出すと言ってもさせんがな!」
少し表情を険しくしたパトリック。
「では!」
そう言って退室するパトリック達。
「クククッ、なかなかいい顔するではないか。結婚パーティーの時は猫被っておったな。そうでなくては死神とは呼ばれんわな。おい、こちらも準備しろ!」
部屋の外に控えていた執事に、コナー子爵が笑いながら言い、足早に部屋を出たのだった。