笑顔
「おいっ! お館様がお戻りだぞ、降りる場所を開けておけよ」
遠くに見える2つの飛行物体を見て、ミルコが他の兵に注意を促す。
「ミルコ殿、なんかおかしくありませんか?」
と、とある兵が言う。
「何がだ?」
「ワイバーンにしては大きいように見えるのです。しかも頭部に角のようなモノが。閣下ならば背に乗ってるはずなのに、背に人は居りませんし」
ミルコは眼を凝らして飛行物体を観察する
「なっ⁉︎ 翼竜だ! ワイバーンじゃない! 総員、弓の用意! くそっ! バリスタが有ればっ!」
グングン近づく翼竜に、兵は弓を構える。
「………」
「ん?」
「…れだ〜」
「何か言ってるな?」
「俺だ〜」
「お館様⁇」
皆が弓を下ろして翼竜をマジマジと見つめる
漆黒の翼竜の両腕にシッカリ握りしめられた鞍を取り付ける革紐。
そこから垂れ下がる鞍の上に、まるでブランコにでも乗るような感じで腰掛け手を振るパトリックの姿が。
しかもなんだか楽しそうな表情で。
「何故翼竜と一緒なのだ? しかも何故笑顔なのだ! あの人の神経が我らとは違うだろうとは思っていた! だがここまで違うのか? なぜ空の上であの状態で笑っていられるのだ。落ちたら死は確実なのに」
周りの兵が深く頷いた。
騒ぎで馬車から出てきたソーナリスが、
「パットだけズルイ! 私も空中ブランコに乗りたい!」
「ああ、ここにも思考がオカシイ人が居た……」
ミルコが呟く。
兵達が注目する中、ふわりと降り立つ二匹の翼竜と、満面の笑顔のパトリック。
「いやぁ、楽しかった!」
と言うと、ソーナリスが、
「ズルイ!」
と頬を膨らませて言う。
「ん? ソナも乗る?」
「うん!」
「よし、じゃあ今度はペーが持つか?」
ギャー
「お、お館様! 危険です! 奥様もご自重下さい!」
ミルコが慌て止める。
「なんで?」
「紐が切れたらどうするのですかっ⁉︎」
「俺で切れないんだから、ソナでも切れないよ。ソナは軽いから」
「そういう問題ではありません!」
「じゃあどういう問題?」
と言い合っていると横から、
「私も乗りたい!」
と、ソーナリスが言い、
「いや奥様、空で吊り下げられるのですぞ? 背の上とは違うのですぞ?」
「遊園地にある回転するブランコみたいなもんでしょ?」
と、パトリックを見てソーナリスが言う。
「ああ! アレと似たようなもんだ。スピードがさらに速くて、回転が一定じゃないだけ」
「なら、大丈夫!」
自信たっぷりで言うソーナリス。
「いや、ゆうえんちが何か解りませんが、ダメですって……」
ミルコが半分諦め気味で言った。