進化
プーとペーが粗方食べ終えたとき、その場にはとある魔物の白骨死体が。
少し高い場所から見ているパトリックにはそれが何かよくわかった。
「翼竜か……」
翼竜
ワイバーンとは別の種類の空飛ぶ竜である。
ワイバーンは言うなれば腕が翼であるのに対し、翼竜は四肢とは別に背中に翼がある。
全体的なフォルムはワイバーンに似ているが、腕が有る事と、ワイバーンの皮膚が爬虫類のような鱗なのに対し、翼竜の皮膚は羽毛である。
大きさはワイバーンより一回り大きく、頭頂部に1本ないし2本の角が前方に向けて生えているのが特徴で、ワイバーンよりも個体数が少なく見ることが少ない。
「翼竜が何故こんな場所で死んでいる? だいたいこんな所に生息してるなど、聞いた事がない。翼竜は大陸全土に出没するとは聞いていたが、目撃されていれば騒ぎになったはずだ」
などと考えているパトリック。
ここでパトリックはプーとペーに声をかけるべきだった。
だが、頭の中で考え事をしていたせいで、プーとペーから目を離した。
次にパトリックがプーとペーを見た時には、
「あれ? 翼竜の骨は?」
その場にはデビュアは勿論、翼竜の骨すら無かった。
「もしかして食った?」
パトリックの呟きに、
ギャウ!
ギギッ!
二匹が満足げに頷いた。
「骨まで食うかな普通……」
そうパトリックが呟いた直後、プーとペーが光り出す。
「眩しっ!」
パトリックが光を手で遮るようにして、顔を背ける。
数秒、いや数十秒かもしれない。光が収まると、その場に居たのは二匹の翼竜。
1匹は漆黒の羽毛に包まれて、頭頂部から剣のような薄く鋭い角が前方に伸びている。
もう1匹は、アイスブルーの羽毛に包まれ、こちらも頭頂部から角が生えているのだが、ドリルのような螺旋状の角が1本、前方に向いていた。
「へ?」
パトリックは眼を見開く。
ギャウ?
ギャー?
「あ、プーとペーなのね」
意思疎通が出来た事で理解するパトリック。
頷いた二匹を見て、パトリックはさらに考え込む。
(個体進化? そんな事あり得るのか? 一瞬で腕が生えたり、鱗から羽毛に変わったりするものなのか? オークがオークキングに進化する条件とはなんだ? 元々キングになるべくして生まれてくるという説が一般的だった。だが、今、明らかにプーとペーは翼竜の骨を食ったから変わった。もしかして上位の魔物を食うことが進化の条件?
今度オークにオーガやトロールの肉を食わせてみるか? いや、ゴブリンあたりで検証するか?)
などと悩むパトリックの肩を揺らすプーの漆黒の右腕。
「ん? プーどうした?」
ギャウ〜
プーの左腕には、進化した時に切れて落ちた鞍のついた革紐。
「ああ、またソナに作って貰おうな」
プーの頭を撫でながら、パトリックが優しく言う。
「というか、鞍無しでどうやって帰ろう?」
さらに悩むことになったパトリックだった。