クスナッツは聞いてみる
ようやく西の砦にパトリックの護衛や使用人たちが到着した。
荷物を下ろしたり、逆に積み込んだりと忙しそうなスネークス家の使用人の中の1人に、クスナッツが遠慮気味に声をかける。
「少し聞きたい事があるのだが、良いだろうか?」
「ん? 忙しいから手短に頼むぞ?」
男は、手を動かしながら返事する。
「ああ、じゃあ単刀直入に聞くが、辺境伯閣下の屋敷で働いてみて、困った事とかあるのか? いや、閣下から警備兵として働かないかとお誘いをうけたのだが」
クスナッツがそう言うと、男は手を止めてクスナッツを見て、
「お! じゃあ同僚になるかも知れんのだな。そうだなぁ。働くうえで困った事は特に無いが、周りの目は少し気になるかもしれんな。何せお館様は領地では尊敬と恐怖の対象だし、その使用人には、それ相応の動きや態度というものが要求されるわけだ。さすがスネークス家の使用人! って言われるように動かねばならない。その分給金は良いぞ。だがもし犯罪なんかして、お館様の名に傷でもつけようものなら、うちの憲兵にしょっ引かれて、物凄い罰があるけどな」
「物凄いってどんな?」
「死んだ方がマシと思えるようなモノらしいが、されたヤツは怯えて何も言わないんだよなぁ。それでも辞めずに働く奴がいるくらいには、待遇も良いぞ」
「それ、やめた奴も居るって事だよな?」
「ああ、程度にもよるけど、お館様の名を出して不正に金儲けしてた奴は、罰受けたあとで、犯罪奴隷にされたから、まあクビだわな。まあ、真っ当に働くなら良い職場だぞ。ちょっとお館様の使役獣とか特殊だけど、それだけさ!」
「ちょっとって、あのワイバーンの事だろ? ちょっとじゃ済まないと思うが?」
「他にもスゲーデカイ大蛇がいるよ。ほらあの馬車の中に居るんだよ。見るか? 俺、ぴーちゃん様にはけっこう気に入られてるから、扉開ける事を許されてるし、ちょうど餌の用意してたところだしな」
そう言って鶏を左手で持ち上げ、右手の親指で馬車を指す男。
「いいのか? ちょっと怖いが見てみたい」
よせば良いのに見ると言ってしまったクスナッツ。
ガチャと扉を開けた男。
開けた途端にぴーちゃんの顔が飛び出てきた。
「ぴーちゃん様、匂いでわかりました? はい、ご飯ですよ!」
などと言っている男の横で、人が倒れる音がした。
「おい、大丈夫か?」
「こここ、腰が抜けた…」
へたり込んだクスナッツが答える。
「まあ、その程度なら大丈夫! 漏らして無いだけ優秀だぞ! アハハ」
大声で笑う男を見ながら、クスナッツはスネークス家に勤めて良いのかさらに悩む事になった。