盛り上がる
「スネークス中将、1つお願いというかご提案があるのですが」
パウター少将がパトリックに遠慮気味に声をかける。
「なんだ?」
「中将の使役獣であるワイバーンなのですが、もしものために野生と見分ける目印的なものが欲しいのです。ここは西の果てなので東の森からワイバーンがここまで来ることは考えにくいですが、ないとは言い切れないし、目印があると民も安心するかと」
「なるほど! 一理あるな。何か考える」
「ありがとうございます、で、砦の工事は順調ですが、何か気になる事はございましたか?」
と尋ねるパウター少将。
何故、国の砦の設備を西方面軍でもないパトリックに尋ねるのか。
そこに “辺境伯” という特別な爵位が関係する。
この辺境伯という爵位、その領地はある意味自治国のような扱いになる。
国境を護る為、その領地の税を国境警備費に充てる事が出来るのだ。国へ納める事なく。
そして、国境線を護る為ならば、辺境伯の判断で開戦する事が許される爵位なのだ。
国の中の扱いとしては、公爵の下、侯爵と同等とされるが、実質は、属国の支配者のような扱いであるため、非常に権限の大きな爵位である。
その領地内にある西方面軍の砦も、国境警備の為にある訳で、パトリックの支配下に置かれている訳である。
王も宰相も、帝国との開戦は近いと思っていて、パトリックに西方面軍も鍛えさせようとの思惑があっての、辺境伯任命なのだ。
「特には無さそうだ。いい感じで進んでいると思う」
「ならば良かったです」
「うむ、あとは周辺を視察して明日には引き上げる。そういえば、うちの妻や騎士達はどこ行った?」
「騎士の方達が大変お疲れのようなので、部屋で休んでおられるようですが」
「あの程度で疲れるとか、訓練が足りないかな」
「いや、精神的疲労ではないかと」
と、パウター少将はミルコ達を気遣った事を言うが、
「快適な空の旅をさせてやったのに精神が疲れるとは軟弱だな」
「いやさすがにそれは、空ですよ?」
「絶景だぞ? 少将にも見せてあげようか?」
と言ったパトリックにパウター少将は即座に、
「遠慮します!」
と、力一杯言うのだった。
♦︎♢♦︎♢
パトリックはソーナリスとプーとペーを眺めながら考える。
どう目印を付けるのかで。
「鞍だけでは分かりにくいってことよね?」
と、ソーナリスが言うと、
「遠くから見にくいのかもな」
と答えるパトリック。
「遠くからでも分かるようにするとなれば、色を付ける的な?」
「鱗に色を塗るのは可哀想だぞ?」
「だよねぇ。あ! この際、プーとペーにも鎧作っちゃう? 革鎧みたいな感じで、鞍だけじゃなく鎧にしてカラフルにしたら、野生じゃないって分かるんじゃない?」
「お! 良いなそれ! よし、帰りの馬車で、どんなのにするか考えるか!」
と、2人で盛り上がる。