腹が立つ
パトリックは今、後悔している。
何故先程、ミルコとアメリアの交際を許可してしまったのか。
数分前の自分をぶん殴りたいと思っていた。
何故1日考えると言わなかったのか!
何故なら、目の前で繰り広げられるミルコとアメリアのイチャ付き具合が、想像の遥か先をいっていたのだ。
別に嬉しくてイチャイチャするのはまだ我慢しよう。ただ、自分達の主人の前で、主人夫婦よりも騒がしいのは、部下として、侍女として如何なものか?
パトリックの額に血管が浮き出ている、ピクピク動いているのが、隣に居るソーナリスにはよく見えた事だろう。
そして、人には我慢の限界というものがある。
「なんか腹立ってきた……」
小さく呟いたパトリックの言葉を、聞き取って顔色を変えたソーナリス。
彼女は知っている。
パトリックがこの言葉を呟いた後にした行動を。
それはソーナリスがテレーサだった時の話だが。
武器の密輸の仕事をしていた仁に、密輸船の船長が、ダラダラ仕事をし、あろうことか日本人だからといって、仁をからかい出したのだ。他の船員も面白がってからかいだす。
仁は基本的に我慢強い性格だった。
が、我慢し過ぎると爆発するのだ。
密輸船の船員全員に、その夜飲む酒に睡眠薬を盛り、寝静まったところを捕らえて、ロープで括り、港に運んで、船にロープを結んだのだ。
皆が目を覚まして騒ぎだすが、ほぼ簀巻状態で立ち上がることすら困難、ようやく上半身を起こした者達の目に映るは、自身と船を繋ぐロープ。
そしてその者たちを見下す仁が居る。
「お前達、死にたくなければ有り金全部出せ。出す者はロープを切って助けてやるが、出さない者はこのまま繋いで出航する。どうなるかはわかるよな?」
冷めた目をした仁に、ある程度の実力者は悟った。
(あ、あの目は逆らったらアカンやつや)
と。
だが、チンピラには分からない。
金のある者は即払うと約束しロープを切って貰った。
払わなかったチンピラの命は、海の藻屑と消えた。
ソーナリスの、ミルコとアメリアを見る目が、哀れな捨て猫を見るような悲しげな目に変わった。
「よし、ミルコ、俺からお前達に前祝いとして、人生初の景色をプレゼントしてやろう。ついでに砦までひとっ飛びだ。あ、プーとペーの背中には、俺とソナしか乗れないから、お前達は縄で木の棒にでも縛り付けて、プーやペーの足に握らせよう。ソナ良かったな。良い暇潰しができたぞ!」
と、ミルコやアメリアに反論する暇さえ与えずに一気に言い放ち、決定してしまう。
と同時に、逃げる暇もなく捕縛され簀巻にされた2人。
哀れミルコとアメリア、2人の絶叫が西の砦にパトリックの到着を知らせるサイレンになった。
なお、ワイバーン二匹の飛行による混乱で、西の砦周辺は大混乱に陥り、砦に逃げ込もうとする領民が押し寄せてきたりした。
なお、見張りの任務についていた、とある男はワイバーン二匹を発見した時、危険を知らせる鐘を必死に叩いていた。
一応、任務は忘れていなかったらしい。