表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
213/316

とある男

西の砦は改修工事の真っ最中である。


先の内乱により、砦の改修点が浮き彫りになったからだ。


火事への備え。

これは井戸水で火事を消す事ができないと明白になった(誰かさんが火を着け回った為)ので、川から水を引き込み、砦の内部に貯水池を作った。

かなりの大事業であったが。


水の引き込み口から侵入されないように、城壁の下部分は掘った堀に太い鉄の柵を取り付け、人が侵入出来ないようにしてある。


これにより、砦のトイレ事情も改善された。

汲み取り式から水洗になったのだ。

出したモノは池に流れ最終的には排水路から元の川に流れる。その池で魚の養殖も始められる。魚が人糞を食べてくれるのだ。その魚は、籠城の際の食料にもなる。気分的には良く無いだろうが。


そして、誰かさんに焼かれてしまった場所の補修工事。

これは木製ではまた火事になるかもしれないと、石造りに変更された箇所が多い。食料庫などはそのおかげでネズミの被害が減った。


「伝令! スネークス領より先触れ! 明日、スネークス中将が視察に来られるとの事です」


「ご苦労! 下がってよし」


「は!」


西方面軍の新たな将であるパウター少将は、少し太めの体をソファに沈め、青い瞳を副官に向け、


「スネークス中将のお出ましだ。兵にも伝えておけ。あの方に変に絡んで問題になってみろ、ワシの首が危なくなる」

と言った。


「はい、何せあの死神中将ですからな。前回視察に来たときに中将の顔を知らなくて、ただの貴族のボンボンだと思って絡んだ兵は、あの通りですからなぁ」と、砦の高見台の上に目をやる。


「あいつには可哀想だが、我らに責任の追及が来なくて助かったな」

金髪の頭をかきながらパウター少将が言うと副官が、


「助かりましたが、いい加減可哀想で」

と返す。


「確かにな……」


♦︎♢♦︎♢


砦の高見台には、1人の男が常駐している。

いや、常駐させられているのだ。

足を鍵付きの鉄の輪で高見台に固定され、下りる事が出来ない。

食事や水は他の兵に持って来てもらうし、排泄物も持って下りてもらう。寝るのも椅子に座ったままだ。もう2ヶ月この場所にいる。


「次に俺が来るまで、お前はここで見張りだ!」


そう言って薄ら笑いを浮かべた男の顔を思い出しては、自分の行動を後悔する。


まさかあんな若造が中将とは、しかもあの死神とは!


スラムのボスとして君臨していた自分が、王都のスラム消滅のため、仕方なく仕事を求めて西に流れて来た。

体に自信があったため、西方面軍の兵士募集に応募したまでは良かった。

訓練を卒なくこなせて、自分はここでも強いと錯覚してしまった。

砦の中の上役にさえ気をつけていれば、ここでも自分の好きなように出来る、そう思ってしまった。


だが、そうではなかった。


視察に来た若造を揶揄ってやろうと、イチャモンを付けたら、逆にこてんぱんにされた。しかも素手の若造に。


騒ぎを聞きつけてやってきた上役が、顔面蒼白で、


「スネークス閣下! 何とぞお許しを!」


と、土下座したときに初めてこの若造が、王都でも噂を聞いていた死神だと知った。


「ほんと、ついてないぜ……」

そう呟いたら返事があった。


「おい、どうやら明日来るらしいぜ! やっと下りられるぜ?」

と、食事を持ってきてくれた同僚が言う。


「ほんとか⁉︎」


「ああ、さっき閣下の部下の方が先触れで来たってよ。パウター少将から全兵士に通達があった。問題起こすなってよ。お前の件を知ってるから、起こす訳無いがな」


「やっと、やっと地面に下りられる」


男はそう呟いて涙を流した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 序盤中盤の成り上がりは勢いがあっていい [気になる点] なんかスネークス怖い(笑)になってきてどんどん面白くなくなってきた。恋愛話も求めてない。ネタに困ってるのか心配
[一言] なぜ降りられると確信しているのかが不思議 あの死神相手なのにね
[一言] 私のようにもう一度忘れたら面白そう 塔の上のラプンツェル氏には ヒドイことになりますが
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ