スネークス本邸
準備が終わりパトリック一行は、街道を順調に進む。
街道掃除は完璧なので、盗賊はおろかゴブリン1匹すら出ない。
スネークスの屋敷に近づくにつれ、徐々に警備する兵士の数が多くなる。
数は多くないが、未だにパトリックの命を狙う者がいる事実。
平民に落とされた元貴族からは相当の怨みをかっている。
恨む相手をその領地で殺してやろうと企む者も出てこようというものだ。
アインを筆頭に闇蛇隊達が情報収集をし、見つけ次第対処しているのだが、この世に絶対という事はない。
気持ちを外に漏らさず虎視眈々と狙う者もいるのだから。
やがて、パトリック一行の周りを警備するスネークス領の兵士は100を超えた。
スネークス領のスネークス邸、そこは広大な土地にある、その見た目はまさに砦と言った雰囲気だ。
以前の旧リグスビー邸は、スネークス領の酒造組合の事務所となっており、ここにメンタル王国全土から酒の買い付けに商人がやって来る。
新たに旧リグスビー領の西側、もう少しで旧ウェスティン領と言う場所に、広大な農耕に向かない荒地があったため、その場所に建築されたのだ。
上から見ると、三角形を2つ重ねたような六芒星とでもいうような形の堀が掘られ、河から水を引いてきた。
その中に同じ形の砦が建築され、さらにその中心に王都のスネークス邸と同じ形の建物が建っている。
大きさは王都の屋敷の倍ほどはあるが。
この堀や砦の工事では、仕事にあぶれていた者達が大量に雇われ、領内において、ほぼ貧困層と呼ばれる民は存在しなくなった。また、スネークス領には仕事に困る事はない。
農業に至っては人手が足りないくらいなのだ。
新たに水を引いてきたことにより、荒地は荒地ではなくなり、スネークス家の直轄農地として、様々な作物が植えられている。
旧ウェスティン領は、旧リグスビー領と同じく麦の産地であり、スネークス家が麦を大量に買い付けるおかげで、新たに麦畑を開墾し、収穫量は右肩上がり。
それに伴い、ウイスキーの生産も増え続けている。
酒職人は人手が足りなくて嬉しい悲鳴というより、ガチの悲鳴を上げ人の募集をしているが、技術を身につけるより簡単な工事の仕事を選ぶ者が多く、なかなか増えていないのが現状である。
砦が完成したのに工事があるのかと疑問が湧くかと思うのだが、西の砦の改修工事や、北の砦の移転工事に派遣され、工事現場は多い。
スネークス領に行けば仕事にありつけると噂がたっているので、王都のスラムから人が消えた実績が何よりの証拠だろう。
その受け皿として、パトリックはスネークス家営団地という共同集合住宅も作り、格安の家賃で貸し出している。
安い家賃で住み、仕事をして家を得るのを目標に定住するものが増え続けている。
今1番賑やかな領地がスネークス領である。
堀に差し掛かると大きな跳ね上げ式の橋がかかっている。
橋には警護する兵士がおり、パトリックは、
「ご苦労!」
と声をかけて通る。
声をかけられた兵士は、直立不動で敬礼をして一行を見送る。
2つの橋を通過すると石造りの城壁とでも呼ぶべき塀(と、パトリックが言い張る)にたどり着き、門番達が敬礼して扉を開ける。
城壁の上で見張りをしている兵達も敬礼している。
門を潜ると、ようやく屋敷が見えた。
領地の屋敷の執事のサンティノが、屋敷の前で待っていた。
「お帰りなさいませ、お館様。そして初めましてソーナリス奥様。スネークス本邸執事のサンティノと申します。以後お見知り置きを」
そう言って優雅に頭を下げたのだった。