ヴァンペルト男爵領にて
翌日、パトリック一行は、隣のヴァンペルト男爵領に入った。
旧エージェー領だが、以前も書いた通り岩山の多い地域である。
ヴァンペルト男爵邸に到着し、早速報告を聞く。
「山羊や羊のほうはどうだ?」
「お館様、羊のほうは順調らしいですが、問題は山羊らしいです。気性は荒いし柵は飛び越えて逃げるし、毎日飼育員や領兵が走り回って探しては、連れ戻しているようですが、確保するのも一苦労らしく、酷い時は岩山の崖に居たりして、とても確保できないようです」
「ふむ、芋のほうは?」
「そちらは順調のようです、ただ、作付面積が小さいので量はイマイチですが」
「なるほど。とりあえず逃げる山羊をなんとかしないとな。明日にでも見に行くか」
「では、今日はこの後は何を?」
「領兵の力量を見る事にする。ワイリーの所の兵士が思っていたより情けなかったのでな、ヴァンペルトの所はどうか気になる」
と、パトリックが言ったら、ヴァンペルトの顔が見る見る青くなる。
「お館様? もしや国軍と同じレベルを要求したりしませんよね?」
「同じ兵士だ。ウチのスネークス領兵も国軍と変わらないだろ? 安心しろ。ちゃんと鍛えてやるから!」
「ダダダダメです! 兵が逃げます!」
「お前もワイリーと同じ事言うのな、大丈夫、新しくウチの領兵を教導部隊として、ワイリーの所に派遣することにしたから、お前の所にも派遣する。俺がやるより多少マシだろ?」
「まさかエルビス殿では無いですよね?」
「エルビス派遣したら、領軍が動けないだろうが。大丈夫、若い兵士だから、自分が出来る事しか教えないだろ。基礎訓練が主だな」
「基礎訓練でもキツイんですがね」
「お前、自分が8軍でやってきた事だろうに」
「8軍に配属された時は、死ぬかと思いましたけど?」
「死んでないだろうが!」
「そりゃそうですけど」
「ガタガタ言わずにさっさと行くぞ、ほら!」
「了解です……」
「あ、トニングも連れて行って、訓練内容を一緒に決めてしまうか!」
♦︎♢♦︎♢
「トニング、お前どう訓練するつもりだ?」
「はい閣下、とりあえず基礎訓練は、スネークス領軍と同じでいくつもりですから、早朝からランニングで、10分の昼休憩の後、ちょうどよく逃げる相手が居るみたいですので、それを追い詰める訓練が良いかと思っております」
と言ったトニングにヴァンペルトが、
「逃げる相手とは?」
と、聞くと、
「もちろん山羊です! 岩山をよじ登ったりすれば、脚だけでなく腕の訓練にもなりますし、山羊を担いで歩けば、それも訓練になりますし」
「おお! お前頭良いな。逃げる山羊問題を訓練にしてしまうのか! よし、岩山1つを訓練所兼山羊放牧場とし、その周りは柵で囲ってしまおう! ちょっと金かかりそうだが高さを調整すれば山羊も逃げれないだろう」
「高い柵を作るだけで、山羊問題は解決するのでは?」
ヴァンペルトが言うが、
「それじゃ訓練にならんだろ。兵士を鍛える必要も有るんだから!」
「怪我人が多く出そうなのですが……」
「ポーション使え」
「はい……」
その日、ヴァンペルト男爵領兵は、パトリックとトニングから厳しい訓練を課せられ、死屍累々の様相を呈した。
ヴァンペルト男爵領軍では、スネークスの名と共にトニングの名も、恐怖の対象という珍しい地域になった瞬間である。