トニング君の憂鬱
「さて。次は領兵だな」
一仕事終えたと、爽やかな笑顔のパトリック。
パトリックに爽やかとは実に似合わない。
が、ワイバーン効果であろうか、既に領兵は完全にビビっており、
「逃げたらこいつらに襲わせるからな?」
と、パトリックがワイバーンを見ながら言わなくてもいい事をトドメとばかりに言ったため、兵達は顔面蒼白。
ワイリーとパトリックの厳しい訓練に倒れる者続出、見かねたパトリックの護衛の若いスネークス領兵が、
「閣下、我らが王都に向かう時に、この領に寄って訓練するというのはどうでしょう? いきなりこの訓練は流石に無理かと」
と、助け舟を出した事で、ワイリー男爵領兵から多大な感謝を受けることになった。
「うむ、それもそうか。よし! お前名前は?」
「はっ! トニングと申します!」
「ではトニング! 君をスネークス教導隊隊長に任命する。我が領兵の訓練を他領に教えると言うのが主な任務となる! ワイリー男爵領や、ヴァンペルト男爵領、それと、アボット辺境伯領で、領兵の訓練にあたること! 復唱しろ!」
「はい閣下! 私は教導隊隊長として、ワイリー男爵領、ヴァンペルト男爵領、アボット辺境伯領で、領兵を訓練致します!」
「よし! 隊員は後で選出させてお前の下につけるからそのつもりで! あ、アボット辺境伯領には最初は俺も行くから、後日連絡する!」
「りょ、了解いたしました!」
慌てて敬礼したトニング。
「じゃあ、訓練はそういうことでいいなワイリー?」
「はい、お館様。いやぁ、助かりますよ。トニング殿よろしくな!」
ニコニコと笑いながら去る2人の背中を見ながら、
「おれ、余計な事言っちゃったかなぁ…」
金髪の髪の毛が力なく揺れる。
「トニングは、気が利きすぎるからなぁ」
同僚が可哀想な捨て猫を見るようにトニングを見ながら言い放つと、
「だっていきなり俺らと同じ訓練だぜ? 無理だろ。かわいそう過ぎる」
「いや、俺らだっていきなりやらされたじゃん。ぶっ倒れたけどさ。閣下の訓練受けて立ってるほうがオカシイんだよ!」
「そうだったなぁ。あの時死ぬかと思ったなあ」
トニングは遠くを見て力なく言った。
緑の瞳に光がないのは気のせいであろうか?