人類初 後編
翌日、昼過ぎにパトリックはソナと一緒に馬車に乗り込む。
なお、デコースの名誉のために、あの事は報告しないと2人で心に決めたのだった。
先ず王都カナーン子爵家に向かう。
「やぁ、パット。と、ソーナリス夫人」
「挨拶とかいいから早く行くよ。乗って乗って!」
「ああ、わかった」
と、デコースがスネークス家の馬車に乗る。
「で、この後の予定は?」
デコースがパトリックに聞く。
「朝1番にウチの使いが王城に、緊急の報告有り、王家派貴族を集められるだけ集めるべし、と報告してある。王都に居る貴族の大半は揃うと思う。そこでデコース兄に魔法を使ってもらう。理由はわからないけど、なんか使えたんだよね、テヘペロって事にして、人族でも魔法が使える者が居る事実を公表し、他にも居ないか探してもらう。まあ、戦力に数える事になると思うけどさ」
「てへぺろが何かよく分からんのだが、まあ人族で魔法が使えたらそうなるよなぁ。エルフやドワーフは、魔法を戦争に使いたがらないからなぁ」
「彼らの信仰する神に背く行為なんだってさ、防衛と狩り以外では使わないらしいよ」
「食べる為ならいいのか。神の怒りには、触れたく無いもんなぁ」
と会話しながら馬車はゆっくり王城に向かう。
♦︎♢♦︎♢
「急な要請に応えて頂き、ありがとうございます陛下」
パトリックが王を前に膝をつき挨拶をする。
「お父様、お久しぶり!」
と、軽い挨拶をするソーナリス。
「うむ、久しぶりって、嫁いでまだ3日だろうが。ソナは軽い感じで来おってからに。ワシのあの時の涙を返せ。で、パトリックよ、王家派を集めろとは何があった? そこに控えるデコース・カナーンと関係がある事か?」
「はい、陛下。人族にとって重要な発見がありまして、急ぎ報告をと思いまして。実は…」
♦︎♢♦︎♢
「なんと! 真か⁉︎ デコース・カナーン!」
驚いた王がデコースに向かって声を荒げる。
「はい、陛下。とりあえずこの場では大きなモノは無理ですので、これを。我が人差し指に小さき炎よ灯れ」
デコースそう言って、指先に小さな火を灯す。
「おおおおおおっっっ‼︎‼︎ 本当だ‼︎ 人族が! 人族が魔法を‼︎ 素晴らしい‼︎」
「陛下、人族は使えないと長く試す事すらしなくなりましたが、使える者が他にも僅かにでも居る可能性が出てきました。国中で探してみる価値があるかと」
「うむ! 人族ならばこの力を国防に使える。大発見だ!」
♦︎♢♦︎♢
その日の午後、王城の中庭には、多くの貴族が集まっているし、軍の重鎮も来ている。
視線の中心に居るのは、パトリックの横に立つデコース・カナーン。
先程、王とパトリックより説明は終わっている。
今は的となる板が用意されている最中である。
「準備が終わりました、陛下!」
「ご苦労! ではデコース・カナーンよ、皆に見せてやってくれ」
「はっ! では! 我が掌より射出せよ! ファイアボール!」
チュッドーーンッ‼︎‼︎
「「「おおおおおおおおっっ‼︎ 本当だったあああ!」」」
「人族にも魔法がっ!」
「これは戦が変わるぞ!」
「娘の嫁ぎ先が魔法使いぃぃい! 凄い!」
「正式な婚約はまだでしょうに」
「うちの娘はすでに嫁ぐ気だから問題無い! なんなら明日にでも正式な婚約をさせる!」
途中、サイモン大将とスネークス中将の会話が混じる。
「いや、どれくらいの数を見つけられるかで変わってくるぞ!」
「とりあえず領地をくまなく探さねば!」
「皆の者、静まれ!」
王の言葉に、その場が静かになると、
「今見て貰った通り、人族にも魔法を使える者が居る事が証明された。威力や数はドワーフの魔法使いよりは低いようだが、充分な殺傷能力がある。後は皆が思う通り、国中を調査して貰う。他に使える者がいたなら、大きな戦力である。そして、現時点で唯一、魔法が使える事が分かっているデコース・カナーンには、王宮近衛騎士団を除してもらい、新たに〈王宮魔術師〉の任に就いて貰う事とする」
この日、メンタル王国に、新たな歴史が刻まれた。