人類初 前編
玄関ホールで混乱している人々を、
「あのワイバーンは私の使役獣です! 襲ってきません! 安全です!」
と叫びながら歩いて回り、一部貴族から、かなり怒られたパトリック。
「先に説明しとけ!」
ごもっともなお怒りである。
その後、会場に移動し、スネークス辺境伯産の酒や料理を振る舞い、ワイバーン以外は好評であった。
新たな料理である〈カラアゲ〉が、特に好評だった。
とある貴族の帰りの馬車の中では、
「そりゃ死神と言われるわけだな、蛇だけでも恐ろしいのに、ワイバーン2匹も増えたとか、逆らう気さえ起きんわ」
と言うと、その妻である女性が、
「逆らう気がお有りでしたの?」
と、聞き返す。
「いや、そんな気は毛頭無いがな、スネークス辺境伯領へ向かう商人達が、我が領の宿に泊まってくれるおかげて、税収は増えたし町に潤いが出てきておる」
「魔物も減ってますしね」
「というか、ほとんど居ないな。スネークス領兵が始末していってくれるから街道は安全だし、うちの領兵の欠員も出ないし、良い事だらけだ」
「西の街道は護衛要らずって言われてますものね。一応は付けてるみたいですけど」
「若い冒険者が死なずに済むのは良いことだ」
などと話しながら帰っていく。
翌日、デコースがスネークス家の屋敷を訪ねてきた。
なんでも内密な話があると。
「お館様、デコース・カナーン様がお見えです」
アストライアがパトリックに告げる。
「ん? 約束してたっけ?」
「いえ」
「まあいいや、デコース兄ならいつでも来ていいし、通して」
「はい」
とアストライアが退室し、デコースを連れて来た。
「急にすまないパット」
申し訳なさそうなデコースに、
「いやいいよ、で? どうしたの急に」
「いやな、聞いて驚くなよ?」
「うん」
「俺は魔法使いになった!」
「は?」
「いやだから、俺、魔法使いになったんだ」
「今日は耳の調子が悪いのかなぁ? 魔法使いになったって聞こえたんだけど」
「だから、そう言ったんだって!」
「デコース兄、良い医者を紹介しようか? 疲れてるんだよ」
「いやいや、ほんとなんだって!」
「デコース兄、人族は魔法は使えないよ? 魔法が使えるのは、エルフとドワーフとダークエルフだけだよ? カナーン家にその血が入った事ないでしょ?」
「そうなんだが、使えたんだよ!」
「はぁ…そこまで言うならちょっとぴーちゃんの遊び場に行って見せてもらおうか」
「ああ、いいぞ」
と言って席を立つと、新設したぴーちゃん達用の大ホールに2人で移動する。
今は3匹とも玄関ホールに居るので、大ホールは空いている。
「じゃあ、あの藁の塊に魔法を放ってみて」
パトリックが言うと、デコースが頷いて、
「では…我が掌より射出せよ! ファイアーボール!」
と言って右手を前に突き出した。すると開いた掌から、地球で言うソフトボールくらいの大きさの火の玉が飛び出した。
チュドォォオン‼︎‼︎
藁に火が付き燃え出す。
「な?」
と、パトリックの方に首を向けたデコース。
「マジで出た…」
パトリックは信じられないモノを見て、顔を強張らせる。
「だから言ったろう!」
「ちょっと経緯を詳しく!」
「その前に火を消さなくて良いのか?」
「あ! 忘れてた!」
パトリックが慌て水を藁にかけた。
「いや、先日に俺の誕生日のお祝いにクラリス嬢が来てくれてだな」
「惚気はいいから!」
「いや、これは大事な話だ。でだな、ドワーフは子供の頃に誕生日には、あるおまじないをすると言われたのだ」
「おまじない?」
「クラリス嬢はハーフドワーフだろ? 母上殿が毎年おまじないの言葉を誕生日に言うようにと、言われて育ったらしくてな。そのおまじないを言って、確かめるらしいのだ」
「確かめるとは?」
「魔法が使えるかどうかを」
「ま、まさか…」
「ああ、クラリス嬢が帰った後に、シャワーを浴びながらふざけて言ってみたんだ。教えてもらった言葉を」
「なんて言ったの?」
デコースは、右手を顔の前に移動し、人差し指を立てて、
「我が人差し指に小さき炎よ灯れ」
と言うと、
ポッ
と、デコースの人差し指に蝋燭の灯のような小さな火が出る。
「な! で、調子乗って、我が掌より射出せよ! ファイアーボール! って掌突き出して言ってみたら出てだな。シャワーですぐに消えたのだが、びっくりしてだな」
「そりゃそうだ! この事は誰が知ってる?」
「まだ俺とお前だけだ。先ずはお前に相談しよう思って来たからな!」
「とりあえずウチのエルフとドワーフの魔法使いを集めて、検証してみるか‼︎」
珍しく興奮したパトリックがそこに居た。