とある当主の決断
王城の中庭は人で溢れかえっている。
今日は第3王女であるソーナリス殿下の結婚式である。
嫁ぐ先は、悪名高き、死神辺境伯こと、スネークス辺境伯家。
私は城の受付で記帳し、会場に入る。
先ず目に付くのはワイバーンの剥製。
奴が陛下に献上した物だとか。首だけの剥製なら見た事があるが、全身の剥製など、王国中でこれ一体だけだろう。わずかな傷だけで倒されたワイバーンを他のワイバーンの皮や鱗で傷を塞ぎ、まるで生きているかのような見事な剥製である。
剥製の周りは人だらけだ。
既に男爵家や子爵家などでごった返している会場では、この剥製について言い合っている貴族が多い。
上級貴族は別室にて待機なので、後で入場するだろう。
「おや、貴方も参加ですか?」
仲の良い男爵に声をかけられる。
「そういう貴方もですよね? ここに居るのだから」
「まあ、そうですな。結婚の恩赦で謹慎処分も明けましたのでな。我が家は奴には痛い目に遭わされましたが、王家には、もう叛意は無いと示すためにも参加しませんとな」
「我が家も同じですよ、表立って動いていた家など、ほぼ潰されましたからな」
「今は王家派と中立派、まあ、少し距離を置いていた家ですが、その二つの派閥が主流ですしな」
「その二つの中でも更に分かれてますがね。王家派は、王太子派が半数と、第3王子派が4分の1、残りはどちらにも属さずですか」
「奴が王太子派ですからな」
「まあ妻となるソーナリス殿下の直兄(母親が同じ)ですからそうなりますわな」
「だが、第3王子と仲が悪い訳でも無いのでしょう?」
「そう聞いていますな、というか、第3王子が奴を怖がっているとの噂もありますし」
「例のヘンリー殿下反乱の時に相当怖がらせられたと噂ですな、私も軍にいる者から色々聞きましたが、奴は相当残虐なようですし」
「うちの兵など、直接やり合いましたからな。相当ビビってますな」
「生き残るためには、奴には逆らわない方が無難ですな」
「仕方ないですな」
などと言い合っていると、扉が開いてゾロゾロと人が入場してくる。
ワイバーンを見て、
「おお、これが噂の剥製か!」
などと声が上がる。
「お、上級貴族のお出ましですな、そろそろ始まりますよ」
すぐに式は始まり、式は教会から呼ばれた神職が厳かに行い滞りなく終わる。
ただ、不思議な儀式が一つあった。
指輪の交換という儀式が。
なんか一瞬紫色に光ったのだが、何かの演出か?
この指輪を2人が着けている限り、2人は永遠の愛を誓うというモノらしいのだが、初めて聞いた儀式だ。
その後、王城の広間での披露宴になり、各貴族が挨拶をする。我が家は後の方なので、スネークス辺境伯領産の新たな酒が振る舞われていたので、その酒を飲みながら、待つ事にする。
先日から流行り出した芋焼酎は、私には合わないが、
女性でも飲めるとの触れ込みで、サワーなるモノが有ったのだが、果実水のような酒で、確かに女性でも飲めるだろう。
そのほかにも色んな酒が出たのだが、私は酸っぱい酒が気に入った。なんでも梅の実を漬け込んだ酒だとか。
極め付けはファイアとかいう酒。
一口飲んで口から火が出るかと思ったのだが、実際にマッチの火を近づけると酒に火が着いた! だからファイアか!
なんだあの酒は!
もう認めよう…あの家には勝てない。次々と新たな酒を作り出し、国中のドワーフから絶大なる評価を受け、商人どもは、その酒を売りたいがため、奴にすり寄る。
国軍においては2軍と8軍の指揮どころか、王都軍全体から死神と恐れられ、北、西だけなく東方面軍まで、奴を恐れている。あのワイバーンを相手にしている猛者達が!
敵に回ると潰されるだけだ。
我が家を守るためには、過去と決別しなければならん。
父を殺され、子爵から男爵に落とされたが、これ以上落ちるわけにはいかない! 我がヒッポー家を守るためだ。舵を切るのなら、早い方が良い。
そう思いながら、挨拶の列に並ぶ。
男爵の列に。
活動報告でも書きましたが、次回は神様登場回となります。これはTwitterで私をフォローしてもらってる読者様には宣言しておりましたが、00の付く話は神様登場です。