罰
翌日、東方面軍の砦に向け出発する東方面軍に2軍と8軍。
が、少し異様な光景が見られた。
普通は指揮官というのは、自分の軍の列の中央に位置するものだと思う、まあ状況にもよるが。
だが、なぜかレイスト大佐は東方面軍の中央ではなく、パトリックの横を走っている。
自分の脚で!
少し時間を遡る。
「では、とりあえず東の砦に向け出発するが、レイスト大佐」
と、パトリックはレイスト大佐の方を見る。
「はい? なにか?」
と、答えたレイスト大佐だが、
「昨日の暴言について謝罪は受け取ったが、流石にお咎め無しでは他の兵に対して示しが付かないのは判るな?」
と言われて、
「はい…」
と、神妙な顔で答えるレイスト大佐。
「まあ特に賞罰沙汰にする気も無いが、何も無しもダメなので、たまには初心に戻って貰おうと思う」
「初心にとは?」
「砦まで、歩兵といっしょに走って貰おう!」
「ええ⁉︎」
「まあ、俺も付き合って走ってやるから!」
てな訳で、最初は意地で先頭を走っていたレイスト大佐なのだが、普段から馬に乗ってばかりで走るのに慣れて無いのか、じりじり位置が下がってきたため、今は中央にいるパトリックの横を必死に走るレイスト大佐。
いや、この表現は正しく無い。パトリックがレイストに合わせて中央まで下がってきたのだ。
ちなみに先頭集団を走っているのは8軍で、その次に2軍が続いている。東方面軍の歩兵はというと、数時間前に脱落して荷物満載でゆっくり進む馬車隊と一緒に、遥か後方を歩いていると思われる。
「おら! スピード落ちてきたぞ! 歩兵に偉そうに命令するなら手本を見せないとな!」
喝を入れるパトリックに、
「いや、はぁ、はぁ、手本を、はぁ、見せる歩兵がはぁ、もう周りに居ないのですが、はぁはぁ」
と息の切れた声で返すレイスト大佐。
「2軍の歩兵が居るじゃないか! 同じ王国軍だ!」
「いやそうですけどはぁはぁはぁ」
「周り見ろ! 2軍の皆は平気そうだろ」
「た、確かに」
「いつもの訓練よりスピード落としてるからな」
「こ、これで?」
驚くレイスト大佐に、
「レイスト大佐殿、普段はこれより速くて、しかもゴールの目標が示されないんですよ! 酷いと次の日の午後まで走らされるんですから、今は砦ってゴールが分かってるだけマシですよ?」
と、近くの兵士が笑いながら息も切らさずに言う。
「中将も一緒に走るので?」
話しかけてきた兵に問いかけるレイスト大佐に、
「中将はいつも先頭で走っておられますよ、まあ後ろに行って喝を入れて戻ってきたりするので、我らよりも走ってますな」
とかえした兵士。
レイスト大佐はパトリックの方を見て
「スネークス中将って獣人の血でも入っておられるので?」と聞くと、
「一滴も入って無いはずだぞ」
と答えられて、
「バケモノですか?」
と、余計なことを言ってしまったレイスト大佐。
「あ、ムカついた! スピードアップだ! 遅れたら砦に着いてからも砦の周り走らせるからな!」
そう言い、先頭目指してスピードを上げたパトリックに、
「そんな殺生な…」
と絶望の表情で僅かにスピードを上げたのだが、追いつけるはずもなく。
砦に到着後、脱落した東方面軍の歩兵と馬車隊が到着するまで延々と走らされるレイスト大佐の姿があった。