男達の語らい
その後、解体の続きや積み込みを両軍が分担して作業し、死者は馬車に乗せられ、先に王都に送りだされた。
その日はその場で野営となり、簡単なオークの丸焼きテリヤキソース掛けとパンを人数分の食事を作って配ると、疲れ果て寝たパトリック。
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「ミルコ殿」
と夜番をしていたミルコを呼ぶ声がした。
振り向いたミルコの視線の先にいたのはワイリーとヴァンペルト。
「何か元気が無いのだがどうされた?」
ワイリーの問いに、
「いや、今日のワイバーンとの戦闘中に、お館様を見失ってな…」
と、言葉を漏らすと、
「お館様を見失うのはよくある事では?」
とヴァンペルトが言うと、
「いや、私は見つけるのに苦労した事はあるが、見つけてからは見失った事はないのだ。それが見失ってしまって、お館様の騎士として不甲斐ないと思ってな」
「ミルコ殿が不甲斐ないとなれば、我らはもっと不甲斐ない事になってしまうではないか。我らなど横に居たはずなのに見失うなど、しょっちゅう有るのに…」
とワイリーが苦笑いしながら呟く。
「お2人には武力があるでしょう。私の腕はお2人には届かないし、出来る事はお館様の補佐と位置の把握かと」
「ミルコ殿はお館様の考えてる事が我らより理解できるでしょう?」
ヴァンペルトが聞く。
「そりゃ、お館様が曹長の頃からの付き合いだから、だいたいのお考えは分かりますけど…」
「それこそがお館様が求めるものでは?」
「む…」
「我らはお館様の手足、ミルコ殿は頭脳の補助。それで良いではありませんか。お館様はまだ若いが我らよりも飛び抜けて優秀な頭脳と、天より与えられたかのような能力がお有りだ。人相手の実戦ならば、多分負けないだろう。だが、一騎討ちなどの正面からの勝負ではその限りではない。その時の為の我らであるし、お館様がもし不在の時に何か有れば、お館様ならどうするかを指示出来るのはミルコ殿だけであろう」
「うむ。その時、ミルコ殿の力が発揮される。我らはその時はミルコ殿の指示に従えば間違いないな」
「お2人とも、ありがとう。見失って自信を無くしていたが、そっちならばまだ自信がある。私に出来る事で貢献するとしよう」
「で、我らが落ちたワイバーンの息の根を止めに行った後のお館様の事を兵に聞いたが、横に居たミルコ殿から見たお館様はどうだった?」
「そりゃ凄まじかったさ。殺気は感じたろう?」
「ああ、もちろん」
「アレも凄かったな」
「あの後、お館様の姿が消えてな、ワイバーンの翼がいきなり裂けたのだ。上空に居るワイバーンの翼が! 後で兵が鉈剣を拾ってきたから、おそらく投げつけたのだろうな」
などと話していると、
「ちょっとその話詳しく聞かせてもらえまいか?」
その場に現れたのは東方面軍の第1師団の指揮官であるレイスト大佐。
「おや、レイスト大佐、眠れませんでしたか?」
「ああ、バリスタ1基で5匹のワイバーンを討伐など、話を聞いてからずっと考えていたし、中将殿から直々にやり方も聞いたが、未だに信じられなくてな。ずっと頭の中で想像していたのだが、どうにもイメージできなくてな。というか、死神と噂のスネークス中将の人柄なども聞きたいな。東には噂しか聞こえてこないが、どれくらい真実なのかも気になる」
「では、最初からご説明と、中将の極悪ぶりのご説明を」
ミルコが少し笑って答えた。
こうして、男たち4人の話は、2時間ほど続くのであった。