軍事行進9
「東方面軍か」
パトリックが呟くとミルコが、
「おそらく」と応える。
「軍旗をあげろ!」
パトリックの指示に兵が旗を上げる。
第2軍の旗は飛ぶ鷲の脚に握られた剣である。ちなみに1軍は飛ぶ鷲の脚に槍、3軍は飛ぶ鷲の脚にハルバートである。
では8軍は?
髑髏に止まる鷲である。
設立当初は、飛ぶ鷲の脚にナイフだったのだが、隊員達から ‘なんか違う’ と苦情が出て、何故かこうなった。
「あちらも軍旗上がりました!」と兵が叫ぶ。
東方面軍の旗は、バリスタに止まる鷲である。ちなみに南は剣に止まる鷲、西は矢と共に飛ぶ鷲、北は槍に止まる鷲である。西だけが攻撃中というのが、この国の歴史を物語る。
スピードを緩めた東方面軍は2軍と8軍の前で停止した。
30代と思わしき金髪で青い瞳の男が、馬に乗ったまま前に出てきて、
「東方面軍第1師団長、レイスト大佐である! この軍の指揮官は誰か⁉︎ 何故街道に展開している! 我らは急いでいるのだ! 直ちに道を開けよ!」
と、偉そうに宣うものだから、
「第2第8の指揮官であるパトリック・フォン・スネークス中将だ! 何を偉そうにほざいてやがる! お前らが仕事してないせいで、ワイバーン5匹に襲撃されて被害者多数だ! 頭下げて謝罪しろこの野郎!」
と、怒鳴ったパトリック。
「そのワイバーンを追っているのだ! 邪魔するな!」
「大佐、拙いですよ! あの死神中将です」
「死神とか噂に過ぎん。みろ! 普通の若造だ!」
などと東方面軍の兵士と言い合うレイスト大佐。
「もう殲滅したわ!」
「嘘を言うな! ワイバーンを落とす武器など無いだろうが!」
「1基のバリスタと部下の弓矢で落としたわい! 偉そうに言う前に謝罪しろと言ってるだろうが! ワイバーンを撃ち漏らして逃がして申し訳ありませんでしたと言え!」
「1基で討ち取れるものか! 1匹落とすのに数基で攻撃してなんとか落とすのがワイバーンというものだ!」
「やかましい! 疑うなら今解体中だから見てこいよ! 5匹分あるからよ! 本当だった時はどうなるか解って言ってるんだろうな?」
「本当だったら土下座でもなんでもしてやるわっ!」
♦︎♢♦︎♢
「申し訳ございませんでした」
土下座するレイスト指揮官。
「で? 何故5匹もワイバーンがここまでたどり着いた? 職務怠慢ではないのか?」
偉そうな態度で椅子に座り、レイストに聞くパトリックに、
「いや、いつもはせいぜい10匹程度の群れなのですが、今回20を超える群れでして、おまけに王都に500人応援に取られて、対応できませんでした」
と、理由を説明するレイスト。
「ああ、タイミングが悪かったのか」
「言い訳になりますが、500人抜けるのはキツイです。それに東は男爵家が多く、魔物も街道ぐらいしか駆除できてませんので、農村部は被害も多く、その対応にも人を割かねばならずギリギリの人数です」
「なるほど、陛下には私からも進言しておく」
「お願い申し上げます。しかしバリスタ1基でどうやって5匹も殲滅したので? 今後の参考にお聞きしたいのですが」
「ん? それはな…」
と、説明し出したパトリックの話を聞き、
「無茶苦茶ですわ〜、1000人の弓矢同時までは分かりますが、自分1人で囮になるとかマネ出来ませんわ〜、落としたワイバーンの息の根止めるのに槍と剣とか参考になりませんわ〜」
呆れたレイストの声が2軍と8軍の兵の失笑を誘う。