表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
184/316

お店

王都の貴族街に近い場所、そこに一軒の店がある。


カランカランとドアの上に取り付けた鈴が鳴り、1人の男が入店した。


「マスター、以前言ってた新しい酒って入ったかい?」

カウンターの席に腰掛け、そう言ったのは、初老の男。

上品な雰囲気を醸し出す、仕立ての良い服を着た紳士だ。


「はい、今日入荷したところですよ。お試しになります?」

マスターと呼ばれた30代の男が言うと、


「もちろん。楽しみにしてたんだ。」

とニコリと微笑む。


「お、あなたもマスターから聞いた新しい酒待ちでしたか。私も待っていてね。仕事そっちのけでここに来ましたよ」


と、隣の席に座っていた男が、初老の紳士に向かって語りかける。


「何せ新しい酒ですからな。私も大急ぎで仕事を片付けてきましたよ、と言うことはそのグラスの中は?」


初老の紳士が聞き返す。


「ええ、新しい酒です。味の感想は貴方が飲んでからにしましょう」


「お気遣いありがとう。そうして貰えると嬉しい」


店のマスターが小皿に1センチほどの炒り豆とナッツを乗せて出し、その横に小さなグラスをさし出す。


「先ずは何も手を加えて無いものをどうぞ」


「ふむ、色は透明か」

と言いながらグラスに鼻を近づける。


「む、臭いがかなり癖があるな」

グラスから顔を離して言う。

「では!」


そう言ってグラスに口をつけて、酒を少し口に含んだ。

「むむ、ふむふむ、ゴクン、ふう」


「どうです?」


飲み込んだのを確認してから、マスターが聞くと、

「臭いは癖があるのに、味にはそれほど癖はなく、だが弱いわけではなく強い。不思議な味だ、ほのかに芋の風味がする」


「流石です。では次はこちらをどうぞ」

と言って、氷が入ったグラスをだす。


「ふむ、氷で冷えるとまた変わるか。どれどれ」

と言って飲む。ゆっくり時間をかけて。


「ほう、ウイスキーの水割りとは全く違う趣向だな。徐々に薄くなって変化が楽しめる」

隣の男が、

「驚いたでしょう?」


「うむ! さすが新しい酒だ! 独特の風味も気に入った!これは流行るぞ」


「まだまだ次はお湯割りです。お楽しみください」


「ほう!癖を前面に押し出してきたか。香りが強烈だな」


マスターが微笑むと、

「まだ持ち帰りは出来んのか?」

初老の紳士が聞くと、


「はい、オーナーの許可がまだですので、ここで飲む分だけになります」

「暫く通うことになりそうだな」

「ですな!」


そうこうしてる間に客は増えて、満席となると、皆が幸せそうに酒を楽しむのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「モルダー、例の酒の評判はどうだ?」

パトリックは、1人の中年男性に聞くと、


「はい、上々です! 特にロックが人気です。まだ、お館様の言いつけ通り芋の方しか出してません。もう一つのほうは、梅を漬けたりして熟成中です。色々試して増やしていきます」

と答えた男。


「今は王都だけだが、そのうち色んな領に店を出すからな。従業員の募集や教育も任せるから、しっかり働けよ」


「はい! 平民に落ちて働き口の無い私を拾っていただいた恩は、しっかりとお返いたします」


「まあ、ある意味俺が平民に落とした訳だがな」


「いえ、アレは父の失態です。ヘンリーの口車なんかに乗るから…」


「まあ、人間、欲って出てくるもんだからな。仕方ないと割り切れ。王国中に店を出して、情報収集して、役立つようになれば、お前にも騎士爵やるから!」


「酒で口を滑らせ漏らした情報を集めるとは、お館様もよく考えてますね」


「男が失敗するのは欲と酒と女だろ?」


「名言ですね」


こうして、バース・ネークスという名の店がゆっくり確実に王国に広まっていくのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] バーのひとはレイヴンの息子?名前出てなかったと思うけど他に該当しそうなのいないし
[一言] ずっと新しい酒新しい酒言うてたのが気になったのでちょっと…ゴニョゴニョ…_φ(・_・
[一言] なるほど、焼酎と来ましたか。 その内、王国の暗黒街の支配者にでもなるつもりなのかな?w 今回の焼酎は芋焼酎のようですが、一言で焼酎と言ってもチョット思いつくだけで米焼酎、麦焼酎、芋焼酎、黒…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ