告白
ズルズルとデコースを引きずりサイモン大将の前まで到達するパトリック。
「サイモン侯爵閣下、この度はおめでとうございます!」
頭を下げて祝辞を贈る。普段大将と呼んでいるがそれは軍での事で、結婚式は〈公私〉で言えば〈私〉なので、侯爵閣下とパトリックは呼んだ。
「おお! スネークス辺境伯ありがとう。ところでその腕を掴んでいる男は誰かな?」
デコースの腕を掴んだまま祝辞を贈る者など、まあいないだろう。気になるのは当たり前だ。
「はい、私の従兄弟にあたるカナーン子爵家の長子、デコース・カナーンです」
「おお! トローラ殿の息子殿か! たしか数年前までは近衛だったとか。で、何故腕を握っているのだ?」
「掴んでないと逃げるので。閣下、少しお願いがございまして」
「ん? 辺境伯のお願いなら善処するが、その願いとは?」
「はい、このデコースですが、29歳にして独身、婚約者もいないのですが、今日、この会場にて心奪われる女性が現れたのですが、遠慮して声をかけないもので、私が仲介しようかと思いまして」
「ふむ、辺境伯の従兄弟で、トローラ殿の息子なら、どこの誰でも私が見合いの席を設けようぞ!」
(よし、言質とった!)
と、内心ほくそ笑むパトリック。
「で、どの女性かな?」
サイモン侯爵は、自分の娘だとは微塵も思っていない。
「はい、閣下の三女、クラリス様です」
「なーにーっ!」
サイモン侯爵の大きな声が響いた。
(あ、怒られるかな? 娘を猫可愛がりしてるので有名だからなぁ)と少し構えたパトリックだが、
「我が娘、クラリスの事を気に入ったのかっ! 天晴れ! 多くの人族の男は、ドワーフの女性を毛嫌いするが、心優しく辛抱強いのがドワーフの女性だ! 気に入った! デコース殿よ! 娘は髭は剃らんぞ? それでも良いのか?」
と、デコースに聞くと、デコースは、
「もちろんです閣下! 髭も含めて惚れました!」
と、デコースが大声で答えた。
それはもう、会場全体に響くほどの大声で。
当然、その声はクラリス嬢の耳にも届いていた。
顔が真っ赤に染まるクラリス嬢。
今まで男性から好意を寄せられた事は無かったのだ。いや、ドワーフの男性からはあるが、クラリス嬢の好みは人族の男性であった。それも自分より背の高い男性を。ドワーフと人族とのハーフであるクラリス嬢は、普通のドワーフの女性よりは背が高い。いや、ドワーフの男性よりも背が高いのだ。
「クラリス! こっちに来なさい!」
サイモン侯爵が大きな声で呼ぶ。
恥ずかしさと嬉しさで、少し駆け足でクラリス嬢がやってくると、パトリックはデコースの横腹を軽く拳で叩いて、
「デコース兄、一世一代の大勝負ですよ! サイモン侯爵閣下は乗り気のようだし、あとは本人に申し込むのみ! 瞳を見つめて、想いを伝えて!」
と、小声で耳打ちする。
「あ、あの…デコース・カナーンと申します! 貴女のお姿を見て心奪われましたー!」
真っ直ぐに見つめて叫ぶデコース
パトリックはデコースを見ながら、笑みを浮かべていた。