森で1
森に向かう馬車が多数。
その中の1つの馬車の中にスタインがいた。
顔は怒りに染まっている。
家族の居場所を特定されたかも知れないという焦りと、まだ家族に危害を加えようとするパトリックへの怒り。
しばらくして森の入り口付近に到着すると、続々と兵士は森に入っていく。
スタインは片脚なので、杖を突きながら歩くことになる。
当然スピードは遅いので、置いてきぼりを喰らうこととなる。
さて、森の中というのは、道が無い訳だが、何も無い訳ではない。
大型の獣が歩いた跡や、冒険者が採取に入ると、下草が倒れるし、ある程度の大きさの生き物が通るには、段差や木の間隔などにより、いくつかルートが決まってくるものだ。
先頭を歩く兵の足元がいきなり無くなった。
ズボッという音の後、
「うげっ」
と、声が聞こえて、その後ろを歩いていた兵が、慌てて駆け寄ると、そこには大きな落とし穴。
底には竹槍のオマケ付き。
哀れ串刺しになった兵は、助からないだろう。
「罠だっ! 罠が仕掛けてあるぞ! 気をつけろっ!」
周りに警戒を呼びかけるが、その後あちこちから悲鳴や、呻き声が聞こえることとなる。
輪っか状の針金に足を吊り上げられ、木の上に吊るされる兵士。
草をアーチ状に編んで、足を取られて倒れた先に有った獣の糞。
ギザギザの入れ歯のような物に足を挟まれて、足首から下が無くなる者。
なんとか罠地帯を抜けた兵士を、どこからともなく矢が貫く。
それを見て逃げる兵士が、なぜか首を切られる。
敵の姿など見当たらないのに。
兵士達は、盾を構えて一塊になり、ゆっくりゆっくり進む。
そうして、ようやく開けた場所にでた。
しかし、その時は既に夕刻。森の中は薄暗い上に、陽が落ちると何も見えない。
急ぎ枯れ枝などを集めて焚火をして、食事の準備をする。
簡単な携行食を食べ、辺りを警戒する兵士達。
真夜中、音もなく、月明かりも無い。
突然、焚火から音がする。
ジューという音と共に、辺りが暗闇に染まる。
焚火の後にはわずかに赤い光を出す燃えかすと水蒸気。
「誰だ! 水なんかかけたのは! これじゃ何も見えウゲッ」
「おい、どうした? 何かあったのウガッ」
「おい、2人ともどうした⁉︎ ゴフッ」
その後、その場にいた数十人の兵士達が、物言わぬ骸になるのに、そう時間を必要としなかった。
その頃、1人遅れて歩いていたスタインは、暗闇の中を歩くのを諦めて、大木の根本に隠れるように夜を過ごした。
翌日、陽が上って歩くのを再開したが、目に飛び込んでくるのは、無残な兵士の骸だけ。
落とし穴に落ちた串刺しの兵士。
木の上に一晩吊り下げられて、獣に齧られた死体もあった。
慌てて森の外を目指して方向転換するスタイン。
その日の夕方、森の外に待機していた貴族当主達と合流。
事の次第を話して、今後の作戦を練り直す。
他の貴族も、面子というものがある。
ぽっと出に舐められたら貴族はお終いである。
慌てて兵と武器をかき集めて、森に再侵入するのに、2日を要した。