屋敷では
さて、立て看板を見た者達の反応は、2つに分かれた。
すぐさま森に向かう者達、この中にスタインも含まれる。
もう一方は、看板を無視して、門を開けてスネークス邸に踏み込もうとする者達である。
森に向かう者達が去った後、門を押す者が現れる。
スッと門が動いた。
「おい、鍵かかってないぞ! どうせ兵は森だし屋敷に踏み込めば、家探しやりたい放題だぜ! 使用人のメイドでも居れば楽しめるぜ!」
「おお! お前頭良いな! 貴族の屋敷だ、お宝がたんまり有るに違いない! 金貨1枚よりこっちの方が儲かるぜ!」
スラムで雇われた者達だろう、小汚い服に錆びた剣を持った男達が言い合う。
その後ろでは、貴族と思わしき身なりの男と、その兵士達であろう者達が、
「奴らに荒らされた後では、戦利品も無くなってしまいますが、どうしますか?」
「なに、奴らも殺してしまえばいいのだ、問題無い。少しくらいは兵も残ってるかも知れぬし、肉の盾代わりにすれば良いのだ」
「さすが! 頭がキレますな」
「そう褒めるな。では、奴らに続いて入るとするか」
と、歩き出す。
門もそうだが、玄関の扉も鍵はかかっていなかった。
音もせず開く扉。
スラムの住人や、貴族達が一斉に突入した。
その途端、扉が閉まった。
そして、目の前に居るのは言わずと知れた…
「うぎゃっー! ま、魔物だっ!」
「に、逃げろっ!」
「おい!扉が開かないぞっ! 鍵などかかってなかったのにっ!」
「早く開けろ! 魔物が来るっ!」
そんな言葉が飛び交う中、ヒュンと空気を切り裂く音がする。
その音の後に続くのは、
「ぶほっ」
ドガーンッ!
「げふっ」
バキーンッ!
「うっ」
ドスンッ!
人の苦悶の声と、人が飛ばされて何かに当たる音。
「おい! あの魔物が玄関ホールに居るとは聞いてないぞ! 別の小屋で飼っているのではないのか! あのガキ、正気かっ⁉︎ おいっ! アレを倒せ! 扉を壊せ! 死んでしまうぞ!」
命令が出されるが、兵士は皆扉に集中する。
誰だって人食い魔物と戦いたくはない。
「この扉、いったい何で出来てるんだ! びくともしやがらねぇ!」
「いいから壊せよ! 蛇が来るだろ!」
「早くせんかっ!」
この者達は知らない。
スネークス邸の玄関扉は高価な魔道具である事を。
分厚い金属製で、蝶つがいなんて物はなく、外からは誰でも開けられるが、中からは登録した者でしか開けられない事を。
一応外から開けられないようにロックは出来るが。
怒鳴り合う貴族や兵達は、後ろを見た方がよかった。
もうそこに来ていたのだから。
“グシャ”
人の束を一瞬にして締め上げたぴーちゃん。
後に残るは、全身打撲のスラム住人があちこちの壁際に、全身骨折の貴族兵が玄関扉の前に。
そして、それを見て錯乱し、腰を抜かす貴族の当主。
「やれやれ、派手に散らかってしまったな…掃除が大変だ。そこの貴族殿、請求書回しますからね」
アストライアの声が、静かに響いた。