鎧
パトリックは、謁見の間を辞すると、そのままソーナリスの元へ向かう。
「殿下、ご機嫌麗しく」
「パトリック様、何やら揉め事ですか? 侍女達が騒いでおりますが」
「はぁ、まあ揉め事ですね。他家に絡まれましてね。やり返したら陛下に怒られてしまいまして、これから攻撃されるようなので、どう返り討ちにするか思案中です」
「え? お父様が? 攻撃されるの? ちょっとその話詳しく!」
♦︎♢♦︎♢
「と、言う訳でして」
「なるほど。泳がせてた貴族を潰しちゃった訳ですね。ならば仕方ないのでしょうか。で、攻撃されるのであれば、お披露目兼動作確認で、鎧を使って下さい」
「完成したので?」
「はい、先日に」
で、鎧がどこからともなく運ばれてくる。
「うわぁ…」
パトリックの口から声が漏れる。
そこには真っ赤な革鎧。
ブーツは赤に銀色の鋲が打たれ、腰は赤いベルト状から垂れる銀色に縁取りされた、蛇の鱗を連想させる防具。
両肩には金属、銀?で造られたと思わしき蛇の頭。
それが赤い革鎧の上に鎮座し、頭から伸びる蛇の体を思わせる細かい鎖を編み込んだものが、革鎧の上を這うように、首の後で交差してから胸の方でまた交差し背中に回る。
左腕の籠手部分にも緑にカラーリングされた、蛇をモチーフにした金属、おそらく鉄鋼製であろう。
右手の籠手は、革が2枚重ねてあるのだろう、中に金属を挟んでいるのか、スネークス家の家紋が浮かび上がっているし、鋲で周りが飾られている。
極め付けは頭部の兜。
「これは、人の頭蓋骨がモチーフですか? 何故?」
そう、銀色に輝く髑髏のマスクと言うのがピッタリな兜。
「死神のイメージって、髑髏でしょ?」
「はぁ、まあそうですけど」
「さあ! 着てみて下さい‼︎」
断るわけにもいかず、以前、王妃から言われた言葉を思い出す。
(確かに正気かと聞かれるわけだ)
諦めて装着してみる。
黒い軍服の上に、赤い革鎧に、両肩の銀色の蛇が二匹と、腕の緑の蛇が一匹。
銀色に輝く頭部の髑髏。
装着してみると、思っていたよりずいぶん軽い。
「ずいぶん軽いですね? 銀や鉄だと思ったのですが?」
「ああ、それはですね、銀色の蛇の頭の部分は軽銀の上に銀を貼ってあります。」
(軽銀ってあれ、確かアルミみたいなヤツだったか?)
パトリックは思いながら続きを聞く。
「蛇の体は、軽銀の鎖と銅の鎖と鉄の鎖を編み込んで、柄を作ってみました。腕の蛇は盾代わりに使えるように鉄製ですけど、中を少し空洞化して重量を抑えました!」
「なるほど!」
「バッチリです! めちゃくちゃ似合ってます! ああ! 苦心した甲斐があった!」
はしゃぐソーナリスと、直立不動のパトリック。
少し離れた所から、侍女アメリアの溜息が聞こえた。