パトリック、怒られる
スネークス伯爵邸より大型馬車が出ていく。
黒い車体に赤い家紋。
今回はぴーちゃんは乗っていない。
大型馬車の前にはパトリック専用の赤い馬車。
大型馬車とは真逆のカラーリング、赤い車体に黒い家紋。
誰のリクエストかは、ここでは伏せる。
〜〜〜〜〜〜〜
一方王城では、調査部から王が報告を受けていた。
「なにっ! スタイン男爵家が?」
「はい、スネークス伯爵家にちょっかいかけたようで、本日、スネークス伯爵邸にかなりの数で押し掛けました。その後、戦闘音が聞こえたため、慌てて報告に戻りました。兵の質からいってスネークス伯爵家の勝ちは揺るがないでしょうから」
「宰相、スタイン男爵家を残しておいたのが無駄になったな…」
「はい、マクレーン殿下の初仕事の為に残して置いたのですが、もはやどうしようもありませんな。スネークス伯爵は容赦無く潰すでしょうし…」
「だろうな、あやつが歯向かう敵に容赦する姿が思い浮かばん…」
「マクレーン殿下には別の仕事を探しましょう」
「それしか無いな、しかしパトリックには一言言っておかねばならんな。近々呼び出すかな」
「ですな…」
なんて事を言っていた一時間後、パトリック達が王城に到着し、謁見を申し出る。
「で?」
と聞いたのはメンタル王。
「はい、陛下。スタイン男爵家からの執拗な屋敷への不法侵入により、イラッと、いえ、執務に支障をきたしますゆえ、対抗措置を取らさせて貰いました。領地での魔物の不当な飼育と、若干の脱税の証拠もここに。それと男爵夫妻と、息子、並びに我が家に不当に押し入った兵も拘束し、連れて来ました。御采配を」
「いま、イラッとしたと言いかけただろ?」
「いえいえ、とんでもない!」
「嘘つけ! パトリック、お前、貴族潰すなとは言わん、だが、潰す前に一声かけろ。わざわざスタイン男爵家を、泳がせていたのに、水の泡になってしまったではないか」
王の言葉に、
(やべっ、泳がせてたのか!)と思って焦ったパトリック。
「あ、泳がせてたので? これは失礼しました。以後気を付けます!」
深々と頭を下げた。
「まあ良い、で、スタイン男爵家の者達は今どこだ?」
「王城の中庭に馬車にて運び入れてあります。まだ馬車の中ですが」
パトリックの言葉に、王は脇に控える近衛に
「では、連れてこい」
と、命じた。
「はっ!」
近衛は短く返事し、退出していった。
♦︎♢♦︎♢
「うわぁ」
これが王のスタイン男爵一族を見た第一声であった。
スタイン男爵は左足の膝から下が無く、まともに歩けない。
男爵夫人に至っては、焦燥して目が虚で、殴られたのか歯が無い。
長男の身体におかしなところは無いが、ひどく怯えてガタガタ震えている。
「パトリック…やり過ぎ…」
「そうですか? 御婦人がゴブリンをこのようにして遊んでたので、こんなのが趣味なのかと、同じようにしてあげたのですが、男爵は気に入らなかったみたいですねぇ。その過程を見ていた御子息は、それ以来何も言わずに震えるだけでね。いやはやなんとも」
飄々と話すパトリック。
「この中で話せるのはスタインだけか?」
「そうですね。男爵夫人は歯も有りませんしね」
「スタイン、何か言う事あるか?」
「へ、陛下、確かに我が家は多少の脱税はしておりました。その罰は受けます。しかし、スネークス家へのチョッカイと、たかがゴブリンを虐待していただけでこの仕打ちは納得いきません。息子は恐怖に怯えております! 男爵の地位の剥奪くらいなら甘んじて受けます! ですが、こやつに我らが不当に迫害されるのは納得できません!」
「まあ、一理有るわな、では、脱税により男爵位を剥奪する。家財などの財産は、追徴課税を差し引いた残りはスタイン家の物とする。ゴブリンの不当飼育と虐待については不問とする。平民となったスタイン家とスネークス伯爵家とのイザコザについては、王家として口出しせぬので、スタイン家にはスネークス伯爵家を攻撃する許可を与える。ただし、王都またはその他の領地へ被害を出さぬよう。罰を気にせず仕返しして良し! 以上!」
(え? 酷くね? 攻撃されるの?)
と思うパトリックと、
(スネークスの奴を良く思っていない家はまだ有るはず。目に物見せてやる!)
と、思っているスタイン。
スタイン一族達は、軍の馬車によって屋敷に運ばれ、そこで税務官に追徴税額を没収された。
王城に残っていたパトリックは、メンタル王から、
「やり過ぎた罰だ、上手く凌げよ」
と、笑いながら言われるのだった。