乗り物?
翌日、スネークス邸の前に揃うスタイン男爵の兵達。
スネークス邸の門番が門を開けると、ゾロゾロと中に入っていく。
(かわいそうに)
門番が心の中で思う。
その様子を館の二階の窓から見下ろすパトリック。
館の扉が開かれ、中からパトリックと5人の騎士が出てくる。
「ようこそ、我がスネークス邸に。スタイン男爵には最高のプレゼントを用意したので、是非受け取って頂きたい。おい、アレ連れてこい」
命じられたアインは、その場を離れたと思ったらすぐに戻ってきた。
それは
「なっ!」
「なんだアレ!」
スタイン男爵の兵が声をあげる。
四つん這いの太った人間に、頭には頭陀袋が被されている。その背中にアインが跨がり、ムチを叩きつけて歩かせる。
うーうーともがく声がする。
「とある場所で見つけた珍しい乗り物でしてな! 是非スタイン男爵の奥方にどうかと。なんでもこのようなのがお好きと聞きましてな」
パトリックの言葉に、スタイン男爵の顔は真っ青。
(何故だ! 何故、コイツが妻の趣味を知っているのだ? どこから漏れた⁉︎ しかも兵の前で!)
「な、何のことか分からんな、妻はこのようなモノなど欲しがらん。だいたい悪趣味だ」
なんとか言葉を絞り出すスタイン男爵。
「おや? そうですか? 悪趣味ですか。スタイン男爵もお気に入りだと思ったのですがねぇ。おい、頭陀袋をとってやれ」
アインがその背中に乗ったまま、頭陀袋を取り上げた。
「げっ! ききき、きさまっ!」
「ね? お気に入りでしょ?」
そこにはスタイン男爵夫人の顔がある。
「我が妻になんて事を‼︎ ゆ、許さんぞっ! 皆の者抜けっ! こやつらを切れ!」
「おやおや、そんな事言って良いんですか? 御子息の行方も確かめずに。フッフッフ」
悪い笑顔のパトリックに、
「きさまっ! 息子を何処へやった⁉︎ 領地の屋敷に忍び込んだな!」
「さて、なんのことやら?」
「ええい、構わん切れ! 後で使用人達に白状させれば息子の居所は分かる! コイツを! コイツを切れーッ!」
およそ40人の兵達が、一斉にパトリックに向かって走りよるが、
「そうは問屋が下ろさないんだよなぁ」
ワイリーが、
「まあなぁ」
ヴァンペルトが、
「我らを抜けるとでも?」
エルビスが言う。
アインが、
「男爵、この馬どうします? 殺しますか?」
と、スタイン男爵を挑発する。
「裏切り者の癖にっ!」
スタイン男爵はアインに向かって突進する。
猪のようにまっしぐらに走り寄るスタイン男爵が、突然倒れる。
「うぎゃっー!」
と、叫びながら。
スタイン男爵の左脚の膝から下が無い。
血が溢れているのに、転げ回るものだから、あたりが真っ赤に染まる。
「これ、なーんだ?」
パトリックの左手に掴まれた人の足。
「かっ、返せっ!」
スタイン男爵が叫ぶが、
「返したところでくっ付かないよ? では、ぽーいっと!」
と、言いながら投げ捨てたパトリック。
あたりは静かになっていた。
スタイン男爵の兵は、3人に沈黙させられており、あちこちに倒れている。
「ポーションが欲しいか?」
小瓶に入ったポーションを振りながらスタイン男爵に見せるパトリック。
「くっ、殺せっ! どうせ今助かっても、後々王家に殺されるのだろ!」
「オッサンのくっころなんか必要無いわいっ!」
「お館様? くっころって、なんです?」
ミルコが訪ねる。
「ああ、なんでもない。気にするな」
「はぁ、まあいいんですが、スタイン男爵をどうします?」
「患部にポーション振りかけて、縛っておけ」
「わかりました」
ミルコがスタイン男爵に向けて歩き出す。
その手にパトリックから受け取ったポーションをもって。