スタイン男爵
アインは数人の部下と、エルビス率いる毒蛇部隊と共に東へ向かう。
先に家族を押さえるつもりだ。
そうとは知らずスタイン男爵は、間者が帰らぬのに腹を立てていた。
「まだ帰らんのかっ⁈」
スタインの声に執事が、
「はい、もうあの家に関わるのはやめた方が良いのでは? 我が家も大人しく王家派に頭を下げた方が賢明かと」
「この期に及んでそんな事できるかっ! へたすりゃ準男爵や騎士爵に格下げだぞ! いったいいくつの家が落とされたと思っておる! せめて男爵の地位を死守せねば!」
「陛下も無慈悲ではございますまい、大人しく頭を下げてしまえば、男爵の地位を維持してくださるのでは?」
「領地でのあの件がバレてもか?」
「バレる前に奥方に、止めるように言えば良いのでは?」
「アイツの唯一の楽しみなのだ、止めるわけがない」
「屋敷の中だけで、収まっているだけマシですか」
「外には出るなと言い聞かせてある」
「それはそうと、何もスネークス家でなくても、他の家で良いのでは?」
「あんな若僧がのし上がるには、賄賂しかあるまい! ならば不正の証拠を掴めば良いのだ。それで脅せばスネークス家は言いなりにできる! やるしかないのだ!」
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2日後
アインはスタイン領に到着し、数人に分かれて調査していく。
スタイン男爵の屋敷の位置は知っているし、侵入経路もわかる。なにせ元の雇い主なのだから。
四つの村を1日かけて調査して、わかったことが1つ。
「異常なほどにゴブリンがいないな。これだけ野山があれば、数匹程度見かけるはずだが」
アインの言葉にエルビスが、
「領兵が優秀なのか、冒険者が優秀なのか分からんが、確かにいなかったな。さて、どうスタイン家の者を連れていく? 拉致か?」
エルビスの問いにアインが、
「それは最終手段として、顔の割れてる私が男爵の使いと言って連れ出すのはどうだろう?」
「お館様に捕まったってバレてないのか?」
ニヤニヤ笑いながらエルビスが聞く。
「あ、バレてるかなぁ」
「ダメじゃねえか」
「じゃ拉致で!」
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アインは、にこやかに門番に近づいていく。顔見知りなので。
「よう、リック! 久しぶりだな」
リックと呼ばれた門番が、
「アインじゃねーか! 奴隷に売り飛ばされたって聞いたが、逃げてきたのか?」
(あ、やっぱり聞いてたのね)
アインはそう思いながら、スタイン男爵の屋敷の門番の顎を下から突き上げるように、有無を言わせず殴り飛ばした。
門番が吹き飛び気絶すると、門を開けて屋敷に向かう。
扉を開けて、屋敷に踏み込むとアインを先頭に走りだす。
目指すはスタイン男爵夫人の部屋。
走る音を不審に思った使用人達が、部屋から出てくるが、殴る蹴るで、無力化していく。
目指す部屋のドアを蹴飛ばし、踏み込む。
「うげっ!」
アインの声が漏れた。
「何者ですか! あ、あなたは確かウチの間者の…」
醜く肥太った男爵夫人が何か言ってるが、アインとエルビスの耳には入らない。
目の前の光景が異様過ぎて。
そこには四つん這いに歩く子供のような生き物。
ただ顔は明らかに人間では無い。
「ゴブリン……」
「ああ、でも流石にこれは…」
四つん這いで、首に鎖の付いた首輪をされ、噛みつかれても大丈夫なように、歯を全て抜かれている。
股間に有るべき2つのモノも無く、有るのは棒状の生殖器のみ。
しかもそのゴブリンの上にまたがる夫人。
小さな子なら乗馬ごっこと言えなくも無いが…いや無理か。
「なぁ、お館様は捕らえてこいと言ったが、生きてりゃ良いかなあ?」
「アイン、皆まで言うな。私も同じ気分だ。流石にゴブリンと言えど、これはな…」
「ポーション持ってるか?」
「ああ、数本持ってきた」
「ゴブリンどもはどうする?」
「殺しときゃ良いだろ」
「だな…」
その日スタイン男爵の屋敷は、ゴブリンの死体が無数に有り、当主家族が消えた。多数の使用人達は、何かされたのか怯えて何も話さないという。
「これ、拉致じゃねーな」
誰かが呟いた。