アインのお仕事
スタイン男爵家。
反王家派閥の末席に名を連ねる家である。
だが、今は風前の灯火というか、沈みゆく泥舟というか、一部の反王家派の暴走の煽りを受け、反王家派全体に、徹底的な調査が行われ、些細な不正でも処分されており、残る反王家派は数家程度。
ここは起死回生とばかりに王家派にすり寄る家もあるが、スタイン男爵家はすり寄るのを良しとせず、別の方法を取った。
今回の騒動の中心にある家、スネークス家の不正を掴み、それで脅して王家に執りなしてもらうという作戦をとった。
「あんなスピード出世など、王家に賄賂を渡しているに決まっている。その賄賂を用意するには脱税しているに決まっておる!」
そう言い放つのは、背は小さく小太り、頭はハゲ上がったスタイン男爵当主。
憶測だけで決めつけて行動する愚か者の典型。
そうして、スネークス家に間者を潜入させることを決定する。
前回の失敗の反省もせずに。
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「ここか、魔境と噂のスネークス家…」
スタイン男爵家に雇われている間者が2人、スネークス家をこっそり観察していた。
「領地の方は兵士が多く厳しいらしいから、こっちで良いのだろうが、こっちはこっちで、警備が厳重だな」
もう1人の男が答えた。
「領地の方に潜入した奴は、捕まって借金奴隷送りになったようだしな」
「犯罪奴隷でないとは、スネークス家も甘いことで」
「恨まれるのが嫌なのかもな、所詮死神と呼ばれようとも貴族のボンボン、俺らとは違うさ」
太陽が沈み、2つの月が真上から世界を照らす頃、間者はスネークス家の塀を飛び越えた。
音も無く庭を駆け抜け、屋敷に張り付くと、ドアの鍵穴に針金を差し込み、ガチャガチャと回しだす。
カチャン
と、小気味良い音がすると、
「よし! さすが相棒!」
「よせよ相棒。さて忍び込むぞ」
「はい、そこまで。抵抗しなければ命だけは保証しよう」
闇蛇隊隊長、アインが声をかけた。
間者2人の背後には、ズラリと並ぶスネークス家の兵士。既に剣も抜かれていた。
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「で?」
と言ったのはパトリック。
「はい、雇い主はスタイン男爵家で、我が主人が脱税してると妄想し、証拠を手に入れ王家との繋ぎを強請る算段だったようで」
アインが聞き出した情報を報告した。
「スタインって確か…」
「はい、私の元雇用主ですね。あの家、反王家派閥に属してましたから、生き残りに必死でしょうね」
「何か動いたりしてたのか?」
「いえ、安全な所から文句を言うだけの小心な家でしたので、特に処分されるほどの事はしていないかと。せいぜい小銭を誤魔化す程度かと」
「その割にはうちの家に2度も間者を放つとは、相当うちが気に入らないのか?」
「金持ちが大嫌いみたいです」
「やっかみか、まあ良い。アイン、まだ来ると思うか?」
「おそらくあと一度くらいは来るかと」
「また来たら、今度はライアン殿に実技指導でもしてみようか。今日は見ただけだしな」
「おそらく拒否されるかと。かなり顔色が悪かったので」
「けっこう楽しいんだけどなぁ」
「それはお館様だけかと」
「そうか? まあいい、スタイン領はどの辺りだ?」
「旧レイブン領の奥の小さな村四つですね」
「東か…家族は?」
「おそらく領地かと」
「エルビスと協力して、当主、家族をひっ捕らえて来い」
「ハッ!」