偽装
とある街道に荷馬車が5台。
幌に覆われて荷物は見えない。
が、盗賊には、カモに見えた。
馬車一台につき、護衛5名と、厳重な警備体制は、荷物が高額な事を匂わせる。
護衛25名と、普通なら尻込みする人数だが、この盗賊団は総数53名。
数は勝っている。
しかも相手は、馬車や商人を守りながらの戦闘である。
盗賊団の頭は、見張りの報告にニヤリと笑い、
「野郎ども仕事だ!」
と叫んだ。
街道は侯爵領の少し手前で、森の中のカーブに差し掛かる。
隠れるにも都合よく、カーブで先の見通しが悪い。
そして、1本の矢が馬車に刺さる事で幕を開けた。
「敵襲!!」
先頭の馬車から怒鳴り声が響く。
護衛の冒険者らしき者が、剣を構えて、辺りを探り、弓矢を構える者は、敵の姿を確認しようと、目を凝らす。
矢が次々と飛び、飛んできた矢の方向に、護衛が放つ矢が飛んでいく。
苦痛の声がし、自分を鼓舞する為か、大声で叫びながら、斧で切りかかってくる男達。
護衛も必死に剣を振り、1人、また1人と地に倒れる。
それは盗賊、護衛、分け隔てなく人が倒れていった。
盗賊の頭は、ここで総員でもって、早期にカタをつけるのが良しとみるや、相手を怯ませる為に、大声で叫びながら走り出す。
人数差が倍ほどになろうかという時に、馬車の後方の幌が捲られ、新たな護衛が続々と出てきた。
「なっ!何?」
事態を把握出来てないのか、頭は指示する事なく、剣を振り回しているが、一気に10人護衛が増えたのは、戦闘に混乱をもたらした。
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「では、商隊に偽装し、馬車の中に2人づつ隠れ、護衛を多く配置し、高額商品を運んでいると、思わせて、襲撃されるのを待つと?」
「ああ、多すぎると、襲わないかもしれんだろ?奴らの半分ぐらいの数しか居ないとおもわせれば、襲撃してくるだろう。すぐに馬車の中から出ると、奴らが撤退するかもしれないから、途中までは、馬車の中組は待機だ。
野盗って、ほとんどは食えなくなった農民か、冒険者だろ?腕はイマイチだろうから、何とか耐えて、敵がほぼ出てきた時に、反撃して殲滅しよう」
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盗賊の数が徐々に減っていき、頭は撤退の二文字が浮かぶ。
その時、妙な寒気を覚えて、後ろを振り返ると、
黒い頭髪を揺らした、野暮ったい男が、口元を歪めながら、片手剣を振り抜いていた。
カシラの見た最後の光景だった。