動乱の時11〜熱い視線〜
「パトリック様、そろそろ良いのでは? そんな人でも一応兄ですので、あとはお父様にお任せして頂きたいのですが?」
ソーナリスがパトリックに声をかけた。
その瞬間、殺気を抑えたパトリック。
「そうですね。この辺にしておきますか。殿下にはお見苦しいものをお見せしました。失礼しました」
パトリックが頭を下げる。
「いえ、ものすごくカッコ良かったです! あと、嬉しかったです!」
ソーナリスの鼻息が少し荒くなる。
「陛下、そして殿下方、お見苦しいところをお見せしました。この後はお任せします」
深々と頭を下げて言うパトリックに、
「うむ、まあ少しやり過ぎ感もあるが、助けられたな。礼を言う」
王は、一応パトリックの行動に釘を刺しはしたが、不問とするようだ。
「弟の不始末、解決してくれて助かった。私からも礼を言う。それと、義兄と呼んでくれた事、嬉しく思う」
ウィリアム王太子は、まだ少し青い顔をしていた。
「パトリック、いや、スネークス伯爵、助かりました。陛下達の御身に怪我1つなく解決。我が腕一本など、些細な犠牲で済んで良かった」
左腕の肘から先が無い腕を見ながら、カナーンが言う。
ポーションは、傷を塞いだり、折れた骨を元に戻したりはするが、欠損した部位を修復してはくれない。
つまり腕は生えてこない。
傷口を塞いで止血しただけである。
「伯父上、もう少し早ければ…」
パトリックは残念そうに言う。
「過ぎた事だ! 名誉の負傷だ。デコースに自慢できるわいっ!」
カナーンはわざと声を大きめにして言った。
「あ、あの、スネークス伯爵、この度は助かりました」
少しおどおどした感じで話しかけてきた銀の長い髪を持つ細身の男。
「マクレーン殿下、ご無事で何よりです」
マクレーン・メンタル第三王子。
顔色が相当悪い。
「よし、とりあえずそこのヘンリーと、フィリアとソフィアを、フィリアの部屋に監禁しておけ! 他の貴族は牢屋に叩き込んでおけ! 他の反乱に加担した兵も同様だ!」
王の命令に、皆が一斉に動き出した。
フィリアとは、第二王妃。
ソフィアは、第二王女である。
「パトリック、すまんが1つ任務だ」
王が言うと、
「レイブン侯爵家ですね? どうします?」
パトリックが先読みして問いかける。
「うむ、出来れば生かして捕縛してまいれ。無理ならば任せる」
「御意! では、失礼します! ソーナリス殿下、帰ってきたらゆっくり会う時間を取りましょう」
パトリックは頭を下げてから振り返り、
「8軍! 並びにスネークス領軍! レイブン侯爵の身柄確保に向かう! 我に続け!」
そう声を上げて歩き出した。
背中にソーナリスの熱い視線をビシバシ感じながら。