動乱の時10〜折れる〜
動乱の時7.8を少し改稿してます。
その場にいる人をパトリックが認識していた描写を追加してます。
崩れ落ちる騎士団長に、ワイリーとヴァンペルトは、槍を捻りながら押し込み、抵抗できないようにする。
「勝負有りだな、ヘンリー! 観念しろ。今すぐ降参すれば生かして置いてやる」
と言った王の言葉に、
「おい! お前達、突撃しろ!」
と、返事をせずに振り返って、反乱兵に命令するヘンリー。
「ですが、騎士団長を倒すような猛者に我らでは…」
兵が答えるが、
「私が逃げる時間を稼げれば良いのだ! いいから行けっ!」
と、言い放つが、
「ぶふぉっ!」
と、息を漏らしヘンリーが吹っ飛ぶ。
「逃すと思ったか?」
その声は、先程までヘンリーが立っていた場所から聞こえた。
パトリックである。
腹を押さえて転げ回るヘンリー。
「え⁉︎ 今、何故ヘンリーが吹っ飛んだ?」
と、小さく呟いた王に、
「パトリック様がヘンリーお兄様のお腹に、ドロッ、いえ、跳び蹴りされました」
と、ソーナリスが言う。
「み、見えたのか? パトリックが移動したのも?」
ウィリアム王太子の問いに、
「はい! 妻ですから!」
と、鼻息荒く宣うソーナリス。
「いや、まだ婚約者…」
と、王が呟く。
「さて、反乱者共を取り押さえろ! 王候貴族は殺すなよ。他は歯向かえば殺しても構わん!」
パトリックは8軍に命令し、ヘンリーに近づく。
「でだ、ヘンリー殿下、陛下のお言葉を無視した訳だが、生きるつもりが無いということでよろしいかな?」
ようやく転げ回るのをやめたヘンリーを見下ろしながら、一応口調を正して聞いた。
「な、何を無礼な! 貴様の様な伯爵如きが誰に向かって口を聞いておる! 生きるつもりがないかだと? 私はまだ負けておらん! 今から皆殺しにウギャーッ!」
話の途中でパトリックに、腹を踏み付けられたヘンリーが騒ぐ。
「何がまだ負けて無いだ。聞いて呆れるとはこの事だ! 陛下の許可さえあれば、今すぐ首を刎ねれるのだがな。だいたいこの程度の手勢でよく叛乱しようと思ったな。頭悪過ぎる!」
パトリックの言葉に、
「煩い! 貴様さえ来なければ上手くいっていたのだ! 城と王都を押さえれば、なんとでもなる! だいたいあの兄より優れている私を、王太子にしなかった父上が悪いのだ! あと少しで皆殺しにして国王になれたものを!」
ヘンリーがパトリックに言い放つ。
が、パトリックの額がピクリと動いた。
その瞬間、パトリックから溢れる殺気に謁見の間は、支配された。
誰も声を出せず、ヘンリーの母親や妹はその場に倒れる。
叛乱兵達も腰を抜かしたり、漏らしたり。
パトリックを良く知る8軍ですら、少し震えた。
そして一番近くに居るヘンリーは、泡を吐いて気絶した。
が、そのヘンリーの腹を蹴り上げて、目を覚まさせると、
「2度も皆殺しと言ったな。
“ボコッ”
そこには大恩ある陛下や、我が妻となるソーナリスも含まれているのだろ?
“バシッ”
そして、結婚したら我が義兄となるウィリアム王太子殿下や、その妻のエリザベス妃も。
“ゴキッ”
ウィリアム殿下より優れている? 何が? どこが? 自分の欲望だけで動くカスがふざけた事を抜かすな!
“グリグリッ”
私はな、身内を狙われるのは大嫌いでな。
“グキッ”
今すぐこの場で殺したいが、陛下の許可が無いので、この程度で我慢しているのだが、どうだ?
“プスッ”
痛いか? そりゃそうだろう。痛みが大きくなるようにしてるんだから。
“ぐりぐり”
死にたくなってきたか?
“ペリッ”
殺して欲しいか?
“メリメリッ”
死ねば楽になれるぞ? 」
冷静な言葉使いなのだが、これは、とある作業をしながらの言葉であった。
なお、この作業を見て倒れる者続出、漏らす者多数。
誰も言葉を発せないから、止める者が居ない。
ヘンリーの全身は出血こそ少ないが、満身創痍。
ポーションでギリギリ治るのかどうか。
ヘンリーの悲鳴だけが、その部屋で響く声。
“パキンッ”
ヘンリーの体から何かが折れる音、それは声にかき消され、皆に聞こえる事はない。
そして、その音と共に、ヘンリーの心も折られた。
パトリックによって。