動乱の時9〜卑怯?〜
ワイリーとヴァンペルトは、突然の命令に戸惑う。
相手は近衛騎士団長だ。
王国での実力は、上から数えた方が早いだろう。
しかも全身金属鎧である。
だが、命令は命令だ。
「り、了解致しました」
なんとかヴァンペルトが声を絞り出す。
「ヴァンペルト、どう動く?」
ワイリーが近衛騎士団長の方を警戒しながら、ヴァンペルトに聞く。
「連携して鎧の隙間を突くしかあるまい。にわか連携だが、お主とは長い付き合いだ。多少はマシだろ」
「それしか無いか。ではいくか」
「ああ」
その声と同時に2人は動く。
2人の槍はとても早く、また急造の連携とは思えぬ動きを見せる。
だが、相手は近衛騎士団長。
金属鎧の特性も活かし、避ける動きは最低限。
多少鎧に当たっても構わないという動きの為、ワイリーとヴァンペルトは、攻めあぐねていた。
「ミルコ、適度に団長の兜の目の所に手裏剣を投げろ」
いつの間にかミルコの横に移動していたパトリックが命令する。
「え? あの2人に任せるのでは?」
「団長の奴、言うだけあって強い。何か隙を作ってやらないと攻めるチャンスが少ない。やれ!」
パトリックの言葉に、
「了解です」
と、小さな声で承諾する。
シュッ! という小さな音で放たれた手裏剣は、うまく兜の開口部、目の位置に飛ぶ。
「ぬおっ!」
もう少しという所で、気がついて避けた騎士団長。
「卑怯な! 2人ではないのかっ!」
罵る声にパトリックは、
「卑怯? その言葉そのままお前に返そう。国軍が居ない隙に反乱を起こす、卑怯者のヘンリーに尻尾振る犬が! 不意打ちまがいで王家に剣を向ける卑怯団長よ! うむ、卑怯団長とは良いネーミングだ! 王国史には卑怯団長と書いて貰おう! アハハ〜」
パトリックが笑いだして、そのパトリックを睨む騎士団長。
そこに隙が生まれる。
「シッ!」
と、ワイリーが小さな声で槍を突き出した。
その穂先が、騎士団長の左脇に刺さった。
「うぐっ」
痛みに声を上げて、一歩下がる団長、だが追撃の槍がヴァンペルトからくる。
団長の左肘の鎧の隙間に、槍が刺さり団長は、さらに後ろに下がる。
そこにミルコの手裏剣が。
プスッと小気味良い音が聞こえ、
「あぎゃあああっっ!」
と、団長が剣から手を離し、右手で目に刺さった手裏剣を抜きにかかる。
「好機!」
と、ワイリーが叫び、突進する。
続くヴァンペルト。
2人の槍が騎士団長の右腕の隙間と、太ももの隙間に刺さった。