動乱の時8〜御指名〜
「8軍は侯爵軍と反乱した者を捕縛、逆らうなら殺して構わん! 責任は俺が取る! 行けっ!」
そう言いパトリックは城の奥に進む。
あちこちに倒れた兵の姿を見つつ、息のある者には王の居場所を聞きながら進む。
途中、倒れている兵から、
「リーパー近衛騎士団長も敵です、お気をつけて中佐……」
と言われる。
そして謁見の間にたどり着く。
そこで見たのは、左腕を失い、膝をつくトローラに剣を振り下ろそうとしているリーパー近衛騎士団長。
パトリックは猛スピードで走り寄り、ガチムチ体形の近衛騎士団長に体当たりして、吹き飛ばす。
「気が触れたか! リーパー近衛騎士団長! 王家を守るべき近衛騎士が、陛下に楯突くとは何事か!」
トローラにポーションを渡しながら、パトリックが言う。その奥に王や王太子、ソーナリスの姿も見える。
怪我は無さそうだ。
「くっ、スネークスめっ! よくもあと一振りで、憎きカナーンの命を取れたものを! こやつのせいで、私はお飾りの近衛騎士団長と、揶揄され続けてきたのだ。本当に強いのはカナーンで、私は爵位が上だったから、近衛騎士団長になっただの、人気はカナーンが上だの、物知らぬ愚民共がっ!」
「人の評価など、気にしなければ良いだろ。しかも愚民なら余計にな!」
「煩い! ポッと出の伯爵に何が分かる! 貴族とは、尊敬されるべき高貴な人間なのだ! 平民は黙って我らの言う事を聞けば良いのだ! それを陰で馬鹿にしおってからにっ!」
「尊敬されたければ、それ相応の行動をすれば良い。それをしないで何を下らない事を」
「やかましい! ヘンリー殿下、いや、ヘンリー陛下は、私を公爵に、そして、国軍大将にしてくれると約束された。ならば、愚民共も認めるだろう! 誰が本当に強いのかを証明する!」
「強さを証明したければ、帝国相手にすれば良いものを、国内に混乱をもたらして何が証明か!」
そこに8軍と、毒蛇部隊が登場し、
「レイブン侯爵軍と反乱した兵、全て取り押さえました! あとはここのみです!」
と、ミルコが報告してくれた。
「ご苦労! お前たちも見ておけ、哀れな近衛騎士団長と、その後ろに居る頭の悪い貴族共の最後をな」
パトリックはニヤリと笑い、
「証明するのだろう? 私では正々堂々戦っても勝ち目は無さそうだが、1人の強さなどたかが知れてる。軍とは組織で戦うものだ。それは近衛であっても同じ。皆で王家を護る。それが解らん愚鈍な近衛騎士団長など、この国には必要無い。そうだな、8軍でこの愚かな男を倒した者は、我家の騎士としてやろう。誰か我こそはと言う者はいるか?」
突然の提案。
皆がポカンとした表情である。
騎士、それは貴族の第一歩。
下級貴族とは言え平民の憧れ、貴族家出身の兵には、自分の家を作るチャンスである。
かと言って近衛騎士団長など、軍での実力は上の上。
そうそう勝てる相手ではない。
それをこんな場面で言うパトリックに、皆が唖然とする中、近衛騎士団長は、
「馬鹿にしおって! 近衛騎士団長だぞ! たかが国軍の急造8軍が、私に勝てるとでも思ったか!」
「大した訓練もして無い団長と、厳しい訓練をしている8軍の兵とでは、伸び代が違うと思うがな。それに、まだ若いのでな。体力が違うだろ。しかも、誰も1対1とは言ってないしな」
またもやニヤリと笑い、パトリックは、
「ヴァンペルト、ワイリー、2人でやれ、お前たちなら勝てる」
と、2人を指名してしまう。