動乱の時2
王都から走り出るや馬車の中には、勿論8軍の馬車もある。
その中には勿論パトリックの姿も。
今回は馬に乗り、スピード重視である。
コートかと言うくらい長い軍服をたなびかせて、パトリックは無言で馬を駆けさせる。
それに続く黒衣の部隊。
8軍はとある貴族の領地に到着する。
8軍の進入を制止しようとする街の門番を、一時的に捕縛し、領主の屋敷まで走り抜け急襲する。
8軍に囲まれた屋敷の主人は、
「何事だ! ここをパジェノー男爵家の屋敷と知っての狼藉か!」
と、叫ぶ。
「国王陛下の勅命である! パジェノー男爵家には、王家に叛意有りとの猜疑がかかっておる! 大人しく連行されたし!」
パトリックの声を聞き、
「むむむ、もはやこれまで! 皆の者! 陛下の勅命を騙る不届き者だ! 切り捨てろ!」
どこの暴れん坊の物語だと心の中でツッコミながら、パトリックはニヤリと笑い、
「8軍! 5分で片付けろ!」
と、号令をかけた。
その瞬間、黒い人影が次々と塀を飛び越え、パジェノー家に居る人間を捕縛していく。
ただ1人を除いて。
「おのれ、パトリックぅぅぅ! この私を軍曹に格下げしただけでは飽き足らず、我が家を潰す気か! 許さん! 決闘を申し込む!」
かつて、トロール討伐で降格させられ、根に持っていた男。
この家の息子、スコット・パジェノーである。
大佐に向いていた憎みは、いつの間にかパトリックにすり替わっていたようだ。
パトリックは、
「バカかお前? 降格させたのは俺じゃなくリードン大佐だろうが! しかもお前のミスでだろうが!」
「アレは私のミスでは無い! 兵が弱いのが悪いのだ! だいたいお前の部隊が、少数で討伐するから、あんな事になるんだ! もっと大勢居れば完璧な作戦だったんだ!」
「お前の家が殿下誘拐計画を知りながら、王に報告して無い時点で、叛意有りだろうが!」
「私が立てた作戦では無いから、私の罪では無い!」
「そんな言い訳通用するかボケ!」
「煩い! 決闘だ!」
「このまま全員捕縛で任務完了なのに、何故馬鹿と決闘せにゃならんのだ! 頭の中、腐ってるのか?」
「煩い煩い煩い煩い! お前を倒せば、後は何とかしてくれる!」
「誰が? ブッシュ伯爵家にも、軍は向かっているし、ハンターレイの所も同様だ。もちろん力を失ったニューガーデンではあるまい?」
「ふん! もっと高貴なお方だ! だが言う必要はない。俺がお前を殺すからな!」
「ほほう、良いだろう。誰が何とかしてくれるのか、後で全て吐かせてやろう」
「勝負!」
と、言いながら槍を構えて走ってくるスコットに対して、パトリックは槍を鉈剣で弾いて男の右手首を切断した。
「弱いっ!」
思わずパトリックの口から言葉が漏れた。
「強かったらどんな卑怯な手を使おうか悩んでいたのに、お前よくその腕で決闘とか言えたな!」
「うぎゃああああああっ!」
煩く叫びながら、右手首を押さえるスコットの後頭部をヤクザキックして、地面に叩きつけ、
「おい、こいつの口に靴でも詰めて、手首を止血して簀巻きにしとけ! うるさいから」
呆気なく終わった。