コソ泥
王家、アボット家、スネークス家が動き回り、情報収集や証拠の入手に動き回って数日。
とある貴族の屋敷。
そこには苦虫を噛み潰した様な顔の男たちが集まっていた。
「スネークス家に潜入させた暗殺者は、何をしとる!」
「今日、王城であのガキが歩いてるのを見かけたぞ? 早く殺させろ!」
「まてまて、まだ動いてないのかもしれん。なにせ一括で先払いと言われたのを、前金と成功報酬に値切ったからな」
「なぜ値切った⁉︎」
「金が無いからだ! 何なら出してくれるか? 残り金貨20枚だ」
「「うっ」」
「無いだろう? 私も無い。だから早くしろと急かす訳にもいかんのだ」
とっくに捕縛されているのだが、情報は入っていないらしい。
「まあ良い。刺客はかなりの腕利きと言う話だしな。あのガキ、腕はそこそこらしいが、1対1には弱いらしいからな。3対1なら確実だろう」
「それよりもソーナリスだ! あの小娘を誘拐して、あのガキの前で殺すほうが楽しかろう? 暗殺者に拉致にしろと、依頼を変えてみてはどうだ?」
「いやいや、ソーナリスはブッシュ伯爵が奴隷にすると言い張るからダメだ」
好き勝手な事を言い合う男達。
それを部屋の隅で聞く男。
パトリックである。
パトリックは必死に殺気を抑えていた。
自分の事はいい。恨まれるのには慣れている。
が、ソーナリスを巻き込むばかりか、殺すだの奴隷にするだのには、今すぐ殺してしまいたい衝動に駆られる。
数十分後、部屋から男達が出ていく。
パトリックは、ゆっくり動き出す。
男達のすぐ背後を続いて歩く。
屋敷の主人の執務室に到着すると、男達は、
「この血判状に誓う!」
「「誓う!!」」
「スネークス家に正義の鉄槌を!」
「「鉄槌を!!」」
パトリックはこの光景に、
(どこの三文芝居だ)
と、先ほどまでの怒りから、呆れに変わる。
男は、机の引き出しに血判状を仕舞い込み、鍵をかける。
男達が去った後、パトリックは机の引き出しを引く。
しっかりと鍵がかかっているから、開く訳が無い。
パトリックは1本の針金をポケットから出す。
(コソ泥時代のテクニックが錆びて無ければいいが)
そんな事を内心思いながら、針金の先を少し曲げて、鍵穴に挿入する。
ガチャガチャカチャカチャと鍵穴を引っ掻き回す事1時間。
ガチャッと音がした。
(やっとか。腕が鈍ったもんだ。昔は五分もかからなかったのになぁ)
そう思いながら引き出しを引いて、例の血判状を確かめる。
そこにはリストに有った名前がズラリと並んでいて、ご丁寧に血の拇印が押されていた。
誰が見ても言い逃れできない証拠である。
(陛下に報告だな。さて、どうしてくれようか!)