泣いて頼む
翌日、早朝にパトリックはぴーちゃんを連れて馬車に乗り込み、近くの森に向かう。
「ほい、行っておいで」
と、ぴーちゃんを送り出して、近くの木の上に登ってあたりを見回す。
2時間ほどで、食べ放題を終えたぴーちゃんが戻ってきた。いつもより2倍は太い。
「馬車の新調を検討しないと、そのうち乗れなくなるな」
パトリックは大型馬車の発注を決意する。
屋敷に戻ると、土下座したアストライアから、
「私には無理です! 誰か他の者にさせて下さい! お願いします! お願いします! なんでもしますから! 昨日、あの声が耳に響いて寝れなかったんです! 今も聞こえます!」
泣いてお願いされてしまった。
今聞こえるのは気のせいだと思うのだが。
「仕方ない、アインを連れてこい」
パトリックは1人の名前を出す。
雇った間者、29人の責任者にした男である。
年は二十歳とまだ若いが、1番根性が有ったので任命したのだ。
どう根性見せたのか?
唯一、パトリックの尋問を二周耐え、血を抜かれた男である。
他の者達から尊敬されている。
「お館様、お呼びと伺いましたが?」
現れた赤毛の細身の男、背丈はパトリックと大差ない。細く鋭い青い眼が印象的だ。
「おうアイン、来たか。お前を尋問担当に任命する。間者であり、尋問経験者でもあるから、やり方も知ってるし最適だろう。アストライアが泣き言ばかりでな。給金、金貨1枚上乗せしてやるから!」
ちょっと戸惑ったようだが、
「お館様の命令です、承りました…が、あと1人くらい道連れにしても宜しいでしょうか?」
1人は嫌だったらしい。
「構わん、人選も任せる」
「ありがとうございます。では私はこれで」
「ああ、あと間者を全員呼び戻せ。仕事が出来たから」
「少し日がかかりますが宜しいですか?」
「5日で足りるか?」
「なんとかしてみます」
「おう、じゃあ頼むわ」