黒衣の部隊の噂
山岳地帯で、制圧作戦を開始して1ヶ月。
ほぼ全ての地域を併合し終えた。
残るは帝国との国境地域である、とある集落のみ。
そこの族長と3軍の司令官であるガナッシュ中将は、話し合いの真っ最中。
「王国に降ったとして、帝国から攻撃されれば死ぬのは我らだ」
「ここに軍を駐留させて、帝国から守る。もちろん君達の仲間にも協力して貰うがな。王国は君達を兵として雇う。その給金で食料を買えば良いのだ。悪い話では無いだろう? 待遇も、そう悪くないよう陛下に進言しておく」
「信用できるのか?」
「信用して貰うほかないが、よく考えてみよ。この集落が拒否しても、他はもう降っているのだぞ? そこに拠点を置くだけだ。こちらとしてはこの集落でも、別の集落でも構わんのだ」
「拒否した場合は?」
「我ら3軍は去るが、8軍、君達に解る通り名だと、黒衣の部隊だったか? それが来るだけだ」
「あの残虐な部隊かっ!」
「あそこの隊長は容赦無いぞ? どうせ伝え聞いているのだろうがな」
ニヤリと笑うガナッシュ中将の青い眼の奥が光る。
「族長の首を刎ねて晒して、降伏を迫るらしいな…。そして降伏しなければ、戦闘において容赦無しとか」
「私の預かり知らぬ事だ。が、降伏すれば生きていられるぞ?」
「私がそう簡単に倒されると思うのかっ?」
「おそらく気が付いた時には、おぬしの首は、胴から離れておるだろうな! さて、選べ!」
「馬鹿にしやがって! 拒否だ! 帰れ!」
「そうか、残念だが帰るとしよう。それではまたな! あ、もう会えないんだったな。では次会うのはあの世だな!」
〜〜〜〜〜〜
3軍が集落から去っていくのを、忌々しく見る族長は、村の男達に、
「戦だ! 武器を用意しろ!」
と、叫んだ。
が、
その叫んだ声に、村の男達が返事をする前に、喉から血が吹き出して、倒れた。
「はい、終わり〜。既に来てたんだよね。で、そこの男共はどうする? 今すぐ死ぬか? それとも降伏か?」
状況が飲み込めていない男達は、唖然として言葉も無い。
「もう一度聞く。今すぐ死ぬか? 降伏するか? さっさと答えろ!」
パトリックの声に、
「お、俺は降伏する! 死にたくない!」
「おおお、俺も!」
「オラは皆に降伏を勧めに行ってくるだ! 誰か分からんが、少し待っててくれ! 絶対皆を説得してくるだ! もう殺さんでくれ!」
「良いだろう。逃げたりしたらわかるな?」
「も、もちろん‼︎」
走っていく男の背を見ながら、
「ようやく帰れそうだ」
と、呟いたパトリックだった。