奇襲
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走る。
馬が、走竜が。
その背中に、8軍の兵を乗せて。
北部は山岳地帯である。
山の木々は針葉樹が多い。
冬場は雪に覆われる地方である。
黒い軍服に身を包み、8軍はなんとか馬が走れる山の裾野を移動する。約2百の兵達は無言である。
ひたすらパトリックの後ろを追随する。
半日ほど走った頃には日暮れが近づいていた。
「よし、ここで夜営する。テント設営! 火は起こすなよ!」
小さな小川を見つけた時パトリックがそう命令を出した。
パトリックは兵を残し近くの木に登り出す。
「砦があっちだから方角からはあの辺かな? もう少し日が落ちれば火ぐらい見えるかな?」
呟き、木を下りる。
「各班、見張りの順番は訓練通りに。夜明け前には出発するぞ」
その後、数匹のゴブリンやフォレストウルフの襲撃があったものの、被害無く撃退した8軍。
パトリックは日が落ちてから、再び木に登り敵の位置をしっかりと確認した。
空が白む頃、8軍は出撃準備を終えていた。
「では出発だ。今日の午後には接敵するはずだ。
皆、スピードを抑えめに行くからそのつもりで」
そう言うと走竜の脇腹に足で合図する。
走竜が走り始めると皆それに続く。
走りながら干し肉を齧り水筒の水を飲む。
戦闘前に食べ過ぎは禁物である。
太陽が真上から少し傾いた頃、前方に砦らしき物が見える。
ようやく回り込み完了である。
この先に敵は居るのだ。
「総員、音を出すなよ。静かに前進だ。」
ゆっくり、ゆっくり進む8軍。
走竜の足音はほぼ無い。
馬はどうしても蹄の音がしてしまう。
パトリックの目測で敵までおよそ1キロ。
「全軍突撃‼︎」
静かに、だがしっかりした声でパトリックは命令した。
「てっ、敵襲っ!」
敵側から声が上がる。
敵までおよそ2百メートル。
敵は先ほどこちらに気が付いている。
パトリックは、馬上にいる身長185センチの筋肉ムキムキの男に声をかける。
「ワイリー大尉! 馬隊弓兵、弓用意!」と命令する。
緑の短髪頭をパトリックに向けたワイリーと呼ばれた男は、緑の眼で目礼し、
「はっ! 馬隊弓引け〜! 構え〜っ…… 放てっ!」
馬隊隊長のワイリー大尉の号令で、およそ百の矢が馬上の弓兵から飛ぶ。
「ヴァンペルト大尉! 走竜隊は槍で突撃!」
パトリックが命令する。
呼ばれた赤い長髪を揺らすパトリックより少し背の高い細身の色男は、茶色の眼を見開いて、
「了解です! 走竜隊! 槍構えっ……突撃っ!」
今回は森林戦を想定していないので槍を持って来ている。
ただし短めの槍だが。
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一方敵は焦った。砦しか見ていなかったからだ。
先日敵援軍が砦に入ったと報告が来ていた。
兵も数百人が戦闘不能になった。
しかし、まさか後方から敵が来るとは思いもしなかったのである。
山岳部族と蔑まれ、山のあちこちに集落を作って暮らしていた人々。
冬の山での生活は厳しく、山の実りだけでは生活出来ない年も多い。その度に平地を目指すのだが、いつも集落ごとの奇襲になるため、追い返されるだけで平地を手に入れた事がない。
今回は各集落と連絡を取り合い全集落合同で仕掛けた。
数に勝るためすんなり取れると思っていたが、砦を攻めるのがこんなに困難だとは思ってもみなかった。
だいたいまともな集団戦すらした事がないのだ。知るはずが無い。
「後方から敵襲!」
この声に軍全体が浮き足立つ。
わずかな矢にすら悲鳴を上げる。
こんなはずでは無かった。
帝国が格安で食料を売ってくれたが、その量は山岳地方全体に分配すれば1ヶ月分程度。戦を仕掛けて王国の領地を取れなければ飢えは必至。
後には引けない侵攻だった。